第2話 異世界人を開示
平日だが、学校が始まるまでまだ時間はある。
俺はオトハを連れて、いったん自分の部屋に戻った。
「さて、そろそろお前が何者か聞かせてもらおう」
オトハと向き合って床に座る。
さっきとは違い、いくらか余裕のある状態だ。
「ふふふ。私のことがそんなに気になるか? もしかして、恋でもしてしまったか?」
「んなわけねえだろ!」
ふざけんな! 俺は身分を明らかにしろと言ってるんだ。
「ちょっとしたジョークだ。そう怒るな」
「こっちは困惑してんだよ! 得体の知れない女に、勝手に上がり込まれるどころか、家に住み着かれることになってな!」
「ならば教えてやろう。私は神だ」
オトハは堂々と言い放った。
「そんなん信じられるか⁉」
俺は秒速で言い返す。
「お前が教えろと言ったんだろ!」
「たしかに言ったけど! なんだよ神って! 明らかに頭おかしいヤツの台詞だぞ!」
「失礼な! 神に向かってその口の利き方は何だ⁉」
「俺はお前が神だなんて思ってないからな! ただのヤバい女にしか見えねえんだよ!」
いきなり人の部屋に入ってきたかと思えば、真っ赤な嘘で居候を始めやがって!
「ふっ、だったら証拠を見せてやろう」
不敵に笑うと、オトハは立ち上がった。
「何をする気だ⁉」
俺も腰を上げて身構える。
「人間界ではこれくらいしかできないがな」
「なっ……」
俺は絶句した。オトハの体が宙に浮いているのだ。両手を広げて見せる。タネも仕掛けもない。完全に浮遊している。
「どうだ。驚いたか」
「それ……どうやって、浮いて……」
どうにか言葉を発する。もしも漫画だとしたら、俺の頭上はクエスチョンマークだらけだろう。
「だから言っているだろう。私は神だ。神ならこれくらいはできる。今お前に見せている空中浮遊をはじめ、瞬間移動に多少の読心術、それから――」
「いや、わかった。もういい。とりあえず、お前が人間ではないってことだけは判明した」
両手を挙げて降参のポーズ。
目の前でそんなことをされては、認めざるを得ない。
神は存在する。柔軟な思考が大事。うん。
「まあ、正確に言えば神とは少し違うがな。便宜上、一番わかりやすい情報伝達の手段として、神という言葉を使わせてもらった次第だ」
「どういうことだ」
自分で神を名乗ったくせに。
「うむ。人間界、すなわち今お前が生きている世界以外にも、いくつか世界は存在する」
ゆっくりと床に降り立ち、オトハは説明を始める。
俺が生きているこの世界以外に……。
「異世界ってやつか?」
「まあ、そのような認識で間違いない。そのうちの一つが、私たちの住むフェリク・ステラだ」
「ふぇりく……すてら?」
当たり前だが、まったく聞いたことがない。
「ああ。私たち、フェリク人が住んでいる世界だ。しかしそこでは、私たちは自分のことを普通の人間と認識している。人間たちから見れば、まるで神様のようなものだがな」
まだパッとしない。俺のその表情を察したのか、オトハが説明を続ける。
「例えば、人間は飛べないが鳥は飛べる。逆に、魚は陸を歩けないが人間は歩ける。同じように、人間は宙に浮けないが、フェリク人は浮ける。その程度の違いだ」
その説明で、少しはわかりやすくなった。
「とにかく、文化の違う国の人間だと思ってくれればそれでいい。私は〝フェリク人〟という人種だ」
つまるところオトハは、何かを願ったり、祈りをささげたりするような〝神〟という存在ではなく、ただ単に〝宙に浮くことのできる神のような人間〟だということか。
俺は非日常を受け入れ始めていた。意外と切り替えが早いタイプらしい。
「で、そのフェリク人が何しに人間界に来たんだよ」
「信じてくれたようだな」
正直、まだ混乱してるし半信半疑だけど。
「まず、フェリク・ステラには
首相と象徴を勝手に足して二で割るな。
「はぁ。それで?」
「現在の
「なんだそりゃ……」
非情に迷惑極まりない話だ。
「何度かの選考を経てある程度絞られた私たち
つまりこの少女は、
「なるほど」
わかったようなわからないような……。異世界にも〝年度〟とかあるんだな。そんなどうでもいい感想を抱いた。
「ただ、戦いの形式が少し変わっていてな。
「まあ、だいたいは。でも、どうしてパートナーが必要になるんだ? そんな回りくどいことせずに、フェリク人同士で戦って決めればいいのに」
「うむ。もっともな意見だ」オトハは、うんうん、と二回うなずく。「それはだな、ぶっちゃけ私もよくわからん」
「わからんのかいっ!」
思わず強めにツッコんでしまったが、彼女は気にも留めていないようだった。
「噂で聞いたところによると、ディバル様の趣味みたいなものらしい」
「マジか……。じゃあ、パートナーってのは、具体的には何をすればいいんだ?」
いきなり戦えと言われても、おそらく無理な気がする。自慢じゃないけど、俺は殴り合いの喧嘩なんて今まで一度もしたことがない。
「一言で言ってしまえば、勝ち残ることだな。日本の領土をフィールドとした、サバイバル形式だ。ちなみに、この戦いに参加しているフェリク人は二百人を超えるらしい」
「つまり、俺がその二百人以上の高校生たちの中で最後に生き残れば、オトハが次の
「そうだ。呑み込みが早くて助かるぞ。さすが、私が見込んだ人間だ」
見込んだ? 俺は偶然選ばれたわけではないのか? そんな疑問が浮上したが、今は話を進める。
「そんなルールで、高校生が協力すると思ってるのか?」
だとしたら、そのディバルとかいうやつは相当なアホだ。
「もちろん、戦う高校生側にもメリットはある。最後まで勝ち残った高校生は、何でも一つ願いを叶えることができる。フェリク・ステラには、人間界にはない技術が多く存在する」
「何でも、一つ?」
「ああ」
俺は唾を飲み込んだ。
「例えば、死んだ人間を生き返らせる……とか?」
おそるおそる、その質問を口にする。
オトハは一瞬だけ眉をひそめた。
「倫理的にはどうかと思うが、フェリク・ステラの技術ではそういったことも可能だ」
心臓が大きく脈打った。
「そうか」なるべく平静を装って俺は言った。「でも、普通に戦うだけなら格闘技をやってるヤツや喧嘩の強いヤンキーなんかを選んだ方が有利だ。肉体的なアドバンテージを覆せるようなものは何かあるのか?」
先ほどオトハは、俺のことを〝見込んだ〟と言った。つまり俺は、腕っぷしの強さではない何かを評価されているということになる。
「よくぞ聞いてくれた。高校生は、フェリク人から与えられる
フェリク人から。つまり、俺はオトハから……。
「ぶれす?」って何だ? 息?
「ああ。いわゆる特殊能力だ。ちなみに、
「特殊能力……」
「そう。特殊能力」
正直、少しワクワクしていた。漫画やアニメの世界に入り込んだみたいだ。男子高校生なんて、単純な生き物なのだ。
「で、俺の
「それはだな……」
オトハは一度言葉を切った。
幾ばくかの沈黙。
そして、告げられた
「【布団が吹っ飛んだ】だ」
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