第30話 海行こうみんなで
永柄との戦いが終わってから約二週間が経過した。その間も俺は、日々の鍛錬を欠かさず行っていた。
永柄の見せた、
しかし、どうすればその力を得ることができるのか、まったくわからない。
そして――俺が今こんな状況になっている意味も、まだよくわかっていない。
太陽を反射して輝く
そう。俺は海へ来ていた。
ことの発端は、二週間前の姫歌の提案だった。いや、あれは紛れもなく提案の皮を被った命令だった。
永柄との激闘を終えた俺は、帰るとすぐに幼馴染みに怒られる羽目になった。
「どこ行ってたの?」
玄関前で待ち伏せしていた姫歌に、連絡がつかなかったことを問い詰められる。少し怒ったような口調だ。隣には姫歌のパートナーのトーマもいて、心配そうな表情で成り行きを見守っている。
仕方なく俺の部屋で、ありのまま全てを説明した。昔からの付き合いなので、嘘をついてもすぐにバレると思ったからだ。
「どうして黙って危ないところに行くの⁉」
俺の話を聞き終わった姫歌は、涙目になっていた。
「ごめん」
かなり心配してくれていたらしい。でも、もし俺が話していたら、姫歌は戦いについて来ていたかもしれない。それだけは避けたかった。
姫歌の
永柄の強さをこの肌で実感した今なら、確信を持って言える。話さなくて正解だったと。
「健ちゃんのバカ! みかんの汁、目にかけてやる!」
止めてくれ。あれはマジで痛いから。
「いや、だからごめんって」
「ごめんで済むなら死刑制度なんていらないよ!」
待って。俺の罪状、そんな重いの?
「まあまあ、姫。健正殿も無事に帰ってきたことですし……。良いではないですか」
トーマがたしなめると、姫歌もいくらか落ち着きを取り戻す。助かった。
「やっと、健ちゃんの力になれたと思ったのに」紺野環との戦いのことを言っているのだろう。「もっと、頼ってほしいな……」
姫歌自身も、自分の力が戦闘向きではないことはわかっているはずだ。それでもなお、俺の力になりたいと言う。そのこと自体は、とても嬉しいことであり、感謝すべきことでもある。しかし……。
「本当にごめん。でも、姫歌を巻き込みたくなかったんだ。許してほしい」
お互いを思いやる気持ちがすれ違う。こういうとき、どこで妥協すれば上手くいくのかなんて、誰も教えてくれはしない。
「……じゃあさ、一つだけ言うこと聞いてくれる?」
姫歌が言った。涙目と上目遣いのコンボ。卑怯だ。
「ああ。俺にできることなら」
罪悪感も相まって、俺に拒否するという選択肢はなかった。
夏休みの宿題代行だろうか。それとも話題のケーキ屋の行列に並ぶことだろうか。それで姫歌が許してくれるのなら、素直に引き受けよう。しかし、姫歌の口から出てきたのは予想外の言葉だった。
「海、行こう」
「海?」
「そう。海」
「おお、いいな! この世界の海はまだ直接見たことがない」
オトハが口を開いた。俺が姫歌に怒られているときは無視を決め込んでいたくせに。都合のいい女め。
「でしょ! トーマもいいよね」
「ああ。さもありなん!」
こいつの間違いだらけの武士言葉、どうにかならねえかな……。いったいどこで覚えてきたんだ。
当然、何でも聞くと言ってしまった手前、俺にその案を覆せるだけの力はない。
こうして、海へ行くことが決定した。姫歌は、さっきまでの暗い表情が嘘のように、目を輝かせていた。
「せっかくだから、あの二人も誘ったらどうだ?」
オトハが言った。
「あの二人って?」
姫歌が首をかしげる。
「今日の戦いで味方になった二人だ。すごくいい人たちだから安心してくれ。なあ、健正」
小湊と春風さんのことを思い浮かべる。小湊が来るとなれば、パートナーのアルマもついてくるだろう。
「ああ、いいな。姫歌にも紹介したいし。どうだ?」
「うん。私も会ってみたい」
逃亡した永柄が何をするかわからない今、遊んでいる暇など本来はないのだが、常に張り詰めた精神状態でいるのもきつい。多少の息抜きも必要だ。それに、こちらから動こうにも、永柄の情報がないのだ。
一日くらい、この戦いのことは忘れて遊んでも罰は当たらないだろう。……というようなことを、頭ではわかっているが、心のどこかで割り切ることができないでいる。
そして、
メンバーは、俺、オトハ、姫歌、トーマ、小湊、アルマ、春風さんだ。
行きの電車の中で姫歌のことを紹介すると、
「姫歌ちゃんじゃないか⁉」
小湊が驚いた顔で言った。
「あああああああ! あのときの! 私のお金返してよ!」
姫歌も驚きながら、同時に怒っている。ってか、お金?
「いやぁ。まさかきみも
いったいどういうことなんだ。思わぬ接点に頭がついていかない。
「税込みで五百四十円でーす!」
姫歌はなぜか金銭を請求してるし。
「えっと? 何? 二人は知り合いなの?」
トーマを含めた三人しか事情がわかっていない様子だったので、俺は代表して質問をしてみる。
「ああ。姫歌ちゃんとは二か月前にカフェで痛っ」
小湊の頭にみかんが勢いよく投げつけられた。
「言わなくていいから! 黙って! みかん投げるよ!」
もう投げてますけど、なんて突っ込んだら俺にもみかんが飛んできそうな気がする。結局、二人の接点はよくわからない。小湊がナンパでもしたのだろうか。
春風さんとは、女子同士ということもあってすぐに打ち解けていた。姫歌は元々社交性が高い。
ちなみに、春風さんのパートナーのフェリク人はヴィオという男らしい。一度だけ顔を合わせてからはずっと別行動ということだ。前にオトハの言っていた、
暑さが一段と厳しくなる七月の初め、こうして
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