1-4.沖縄
「何?亜美ちゃんが死んだ?」
月曜の朝、雅彦からの話に高瀬は驚きの表情で反応した。無理もない。月曜の朝一、週の仕事始めから話題に出来るような内容ではない。それでも雅彦はこの辛い現実を誰かと共有したかった。だが流石に“殺された”とは言えず、とりあえず身元確認の為に沖縄へ向かうことを高瀬には伝えた。
「マジかよ。そんなことがあるか?」
「午後の関空から那覇行きのチケットを取っている。今から潟山専務に状況を説明して許可を取るつもりだ」
「あ、ああ。わかった。とりあえずお前の仕事のカバーはするから俺に業務は振ってくれ」
「悪いな。助かるよ」
本来、制作部である高瀬に自分の仕事のカバーを頼むなんてあり得ない。しかしただでさえ頭数が少ない営業部。実際に面倒をかけるのはこの繁忙期に最も負担が大きい高瀬たち制作部や他の部署の人間だ。
そんな状況で職場を抜けるのは同僚たちに申し訳ないが、事態が事態だ。
潟山専務も状況を理解してくれ、雅彦は有給を取ってその足で関西国際空港へと向かった。
機内で雅彦は亜美との日々を思い返していた。亜美の声、亜美の温もり、亜美と見た景色。一気に走馬灯のように駆け巡り、雅彦は初めて涙を流した。それは雅彦がどこか自分の中で否定していた亜美の死を初めて受け入れた瞬間だった。
約2時間のフライトを終えて那覇空港に降り立つと、到着ロビーでは雅彦を待っていた人物がいた。
「三浦さんですね?」
話しかけてきた男からは並木たちと同じ「匂い」がした。
「そうです」
「沖縄県警の仲間と言います。こちらは同じ沖縄県警の
警察手帳で身分を証明すると、比嘉と紹介された刑事が「お荷物お持ちします」と雅彦からキャリーバッグを受け取った。
「これから沖縄市内の病院へと向かいます。お送りますので一緒についてきてください」
「わかりました。どうぞよろしくお願いします」
仲間たちに連れられ空港の外へ出ると、モワッとした空気が身体を襲った。凄い暑さと湿気だ。一気に脂汗が噴き出る。
「その格好じゃ沖縄は暑いでしょう?」
職場から直行で来たため、雅彦はスーツ姿だった。確かにこれでは暑い。対照的に仲間と比嘉はアロハシャツのようなものを身につけていて、すごく涼しそうだ。
「三浦さん、沖縄の夏はこれが正装なんです。三浦さんのようにこの時期にスーツ姿の人間はすぐに“
「そうなんですね・・・」
笑いながら仲間という刑事が話しかけて来たが、雅彦の反応が悪かったのかそれから車中でも2人が雅彦に話しかけてくることは無かった。
40分ほど経っただろうか。道中、英字の看板がやけに目立つ街にやって来た。闊歩している人々をよく見ると外国人が多いことに気づく。
「ここは基地を所有している街なんで、在日米軍たちの姿は珍しくないんですよ」
車外へ視線を向ける雅彦を見て、仲間が丁寧に説明してくれた。
「亜美もこの街にいたということですね」
「ええ、そうですね」
仲間の返答にはどこか同情の欠片が入っていたような気がした。
それにしても治安が良いとは思えないこの一帯に、亜美は何の目的で訪れたのだろうか。那覇空港からここまで見た景色・・・。亜美も同じ景色を見てこの地にやって来て、命を落としたのだろうか。北海道に行くと自分に嘘をついてまで・・・。
雅彦の疑問はより深まるばかりだった。
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