1-5.対面した遺体
午後8時。病院へ到着したのは日が完全に暮れ始めた頃だった。
「亜美さんは遺体安置所にいます」
仲間の言葉に従いその後ろを歩く。
通された部屋は病院の正面入り口とは真逆の裏側にあった。足を一歩踏み入れた瞬間、急に緊張感が襲う。テレビドラマや映画で見た霊安室そのままではないか。それらの思考が、亜美の死という現実が迫っていることを余計に感じさせた。
「遺体はこちらです」
先頭を歩いていた白衣の男性看護師が、幾多も並べられているステンレス製の大型トレイの一つに手をかけゆっくりと手前に引いた。
青白い皮膚の色をした足、そのすぐ上に白いシートが首元までかけられており、徐々にその姿が顔まで近づいてくる。わずか3秒ほどのことが雅彦にはスローモーションのように感じられた。
顎、唇、鼻、目、そして頭部まで露わになったところで看護師はその動きを止めた。
「亜美・・・」
小さく呟いた雅彦に、隣にた仲間が声をかける。
「佐藤亜美さんで間違いないですね?」
「・・・・・・・」
雅彦は答えなかった。違和感がある。遺体の頬が驚くほど痩せこけているし、亜美にしては少し白髪も多い気がする。
自分の知っている亜美は外見的にもっと健康的な人間だ。
「仲間さん、ちょっと待ってください」
「うん?どうされましたか?」
「この遺体の遺留品に亜美の免許証があったんですよね?」
「そうです。現場で発見されました。それが何か?」
「しかし・・・」
徐々に徐々に、雅彦の頭がクリアになっていく。
そして仲間と改めて向き合い、雅彦ははっきりと告げた。
「この遺体・・・、亜美じゃありません」
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