第3章ー5人間も精霊も変!
「なんか頭痛がする面談だった……」
事務室へ戻るなり、廊下の自販機で買った冷たいコーラを流し込みながら柏木がぼやいた。
「ノームはやはりプライド高かったですね」
桃瀬もぐったりしながらも、同じく自販機で買ったブレンド茶を開けながら相づちを打つ。柏木と同じコーラをチョイスしようとも思ったが、カロリーが気になるのだ。
「陶芸家に茶道に俳人と……どっから勉強したんだろ?」
「さ、さあ……。リサイクルゴミに出ていたどっかのグルメ漫画を読んだのではないですか?」
「俺、なんか疲れた」
「私もです」
「「はぁ~~~」」
二人同時にため息をついて机に突っ伏した。
「気持ちはわかるが、立ち直れ。竜神捜索もしないとならないからな。ほら、うめえ棒をやるから」
榊が引き出しのストックからお菓子を取り出し、二人に配る。
「主任、だからなんで普通のチーズ味やコーンポタージュ味じゃなくて、“明太納豆ピザ味”なんですか。もらう身で文句言うのもなんですが」
柏木が異議申し立てをするが、心なしかさらに元気が無くなったような気がする。
「ん? 不満なら期間限定の“キムチチョコ”味に取り替えるか? 他にも“トドカレー味”もあるが」
「……明太納豆ピザでいいです……」
柏木は力無くうなだれつつ、うめえ棒を諦めたようにかじり始めた。
(うう、ここにも頭痛の種がいる。これとドSが無ければイケてる人なのに)
桃瀬は喉まで出かかってる言葉を飲み込んで榊に尋ねた。
「竜神捜索と言っても、市役所さんの話では目撃情報が無かったそうですね」
「ああ、だが見沼田んぼは広大だからな。市役所も調べてない所もあるだろう。伝説があるということは、少なくとも昔はその存在がたびたび目撃されており、認知されていたということだ」
「でも、伝説だと見沼にいない可能性もあります。だからウンディーネが増えてるのでは? 竜神は水の神様だから、いなくなったから侵食しているのかも」
「ああ、その可能性もある。だから印旛沼も調べないとならない。柏木、千葉の佐倉管理事務所へ印旛沼の竜神捜索の調査依頼をかけてくれ。さすがに見沼田んぼと印旛沼の捜索はうちだけではきつい」
「了解っす。でも、印旛沼も広いよなあ。千葉の人達、すぐ終わるかなあ」
ぐったりしつつも、柏木はパソコンを開き、依頼文書を作成し始めた。
「並行して、他の精霊案件やら調査もしなくてはならないし、ヘビィですね」
桃瀬はまだ立ち直れていないらしく、机に突っ伏したまま答える。
「ぼやくな、追加のうめえ棒をあげるから」
榊が出してきたうめえ棒は先ほど柏木に出そうとしてきたキムチチョコ味と確認した瞬間、桃瀬はとっさに断った。
「い、いえ、もう結構です! そ、そうだ、捜索方法の一つとして、ホームページや公式SNSにも情報提供を求めましょう。ちょっと庶務課のWeb担当の元へ行ってきますっ!」
桃瀬は急にシャッキリと姿勢が直り、立ち上がると庶務課へ素早く移動していった。
「なんで、みんなうめえ棒を嫌がるんだ?」
榊があげそびれたうめえ棒を持ちながら、不思議そうに首を傾げる。
「主任、好みが常人とかけ離れてることを自覚してくださいよ……」
「そっか?明太納豆ピザ味、うまいじゃないか」
「……ダメだこりゃ」
「竜神の目撃情報? 捜索? こりゃまた壮大な依頼だわねえ」
「そうなのよ、タカちゃん。なかなか難しいのだけど、少しでも情報が欲しいの。見沼田んぼの農家さんが困っているし」
庶務課のWeb担当者である高梨は桃瀬の同期でもある。時折、一緒にランチしたり女子会をする仲だ。
「精霊部門も大変ね。じゃ、正式な依頼文書は後でフォームから送ってね。って、最初からそうすれば良かったのに」
概要をメモしながら、不思議そうに尋ねる。
「それもそうなのだけど、ただでさえ変な精霊に会って参ってるところに、榊主任のお菓子でダメージくらいそうだったから逃げてきたの」
「えー? 主任って、あの榊家の人でしょ?
悪い精霊をダイレクトアタックできるすごい人だし、結構イケてるし、所内でも狙ってる人多いよ。私だって精霊部門へ行きたかったわー」
高梨が無邪気にはしゃぐ。彼女はちょっとミーハーな面があるが、それ故に情報収集もうまい。Web担当に選ばれたのも、そういう所を買われたのかもしれない。
「……真実を知らないって、幸せなことね」
桃瀬がうなだれて、がっくりと肩を落としてため息をついた。
「何か言った?」
いけない、こちらにはちゃんと仕事依頼のために来たのだ。女子会のノリを持ち込んではいけない。気を取り直して高梨に頼んだ。
「ううん、何でもない。じゃ、公式ホームページとSNSの件お願いね。また今度、女子会でもしましょ」
「わかった。でも、女子会より、精霊部門の皆様と合同飲み会の方がいいー! 柏木君も年下だけどイケメンだし。はー、桃っちが羨ましいわ」
「……考えておくわ」
「榊主任がイケてる、ねえ。……うーん」
新たな疲労感を抱えつつ、桃瀬は精霊部門へ続く廊下を歩き始めた。
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