第368話 亜里砂さんの意図
昼食前にちょっとハプニングがあった。
テント内で仮眠中の先輩がなかなか起きてこないのだ。
普通に呼んでも起きない。
亜里砂さんのシュラフとマットで熟睡してしまっている。
最終的には亜里砂さんが魔法『表層意識に直接爆音を届ける』を発動。
やっと起きてきた。
「いや、あのテントにマットにダウンのシュラフ、無茶苦茶寝心地がいいな。仮眠のつもりが熟睡してしまった。しかし亜里砂の魔法は凶悪だな」
「もっと弱い魔法も試したのだが起きてくれなかったのだ。耳元で囁く程度の音量、枕元の目覚まし程度の音量では駄目だったのだ。急ブレーキ中の地下鉄直近レベルの音にしてやっと目覚めてくれたのだ」
「確かにさっき寝心地を確かめた時、ちょうどいい感じでしたね」
美洋さんもそう言う。
テントの下が板のせいもあるが、かなり温かいのも確からしい。
あとで中に入って確かめてみよう。
取り敢えず今は昼食。
温かいスープスパゲティが美味しい。
「簡単だけれど間違いない味だね、これ」
「追いチーズの効果もなかなかいいのです」
こういう普通の山料理も色々憶えないとな。
先生も先輩も料理が上手いからなかなか機会が無いのだけれど。
きっちり全部食べた後、キャンプ場の洗い場で鍋と食器を洗う。
本当の登山なら濡れティッシュで拭いて誤魔化すのだが、今日はそこまでしなくていいだろう。
食べた後はちょっとのんびり。
ここは林の中をちょっと開いたような場所。
だから風もあまりないし日向だと冬でもそこそこ温かい。
温かいと言ったらまだテントの中を試していなかったな。
「ちょっとテントの中を試してみる」
入ってみる。
流石に女の子の寝袋の中に入るのは申し訳ないので、その上で横になるだけ。
確かにこれは快適だ。
荷物は入口の外でフライが屋根になっている部分に置けば2人まで楽勝。
雨の日も屋根のある外部分で調理とかすればいいし。
1人か2人旅ならこういう感じがいいのかな。
彩香さんなら足下に荷物を置けばちょうどいいかな。
『ほら、やっぱり彩香のことを考えるのだ』
そりゃ色々身近な存在だしさ、と言おうとして気づく。
今の亜里砂さんの声は声じゃない。
『彩香に聞こえないように魔法で直接話しているのだ。なお悠から会話するには会話文を話すつもりで思い浮かべれば大丈夫なのだ』
本人がそう説明してきた。
なのでその流儀に従って質問してみる。
『今この方法で話しかけてきたのは何故なんだ?』
亜里砂さんは無制限に他人の表層思考が見えてしまう。
その事は知っている。
でもこうやって態々話しかけてきたのは初めてだ。
その理由が知りたい。
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