第354話 凶のおみくじ
3人で亜里砂さんの様子を後ろから観察する。
彩香さんはおみくじを手にして広げた。
見て、顔をしかめてる。
そしてうーん、と考えている様子。
少なくともあまりいい卦が出た感じでは無い。
「どうだった」
取り敢えず近づいて、彩香さんが声をかけた。
「凶だったのだ……」
やっぱり。
「参考までに書いてあることはどうだった」
「努力しないと失敗するそうなのだ」
それって言い方は違うけれど今までのおみくじと同じ意味ではないだろうか。
「その通りなのだ。私の座右の銘が否定されたのだ」
僕が声に出していない事に返事するくらい落ち込んでいる様子だ。
「ちなみに座右の銘は何なんだ?」
「『果報は寝て待て』と『棚からぼたもち』なのだ」
おいおいおい。
それじゃ神様も怒るだろう。
「まあ元気出せ。元々ここのおみくじは凶が多いんだ。だから救済策もちゃんと神社側で用意している。
でもその前に、このおみくじの中身をスマホで撮っておけ。神様からの有り難い言葉なんだから忘れないようにさ」
「そうするのだ」
亜里砂さん、反論する元気も無い模様。
ちょっと可哀想かな。
「写真を撮ったらこっちだ」
先輩は赤い箱の前に案内する。
「ここのおみくじは実は凶でも悪い訳じゃ無い。書いてあることを守れば凶も変化するという、むしろ小吉あたりより良い卦なんだ。
おみくじの内容をよく読んだら、折りたたんで結んでこの箱に入れる。この箱に入れたら自分の望みを願いながら箱の上の矢を強く握る。そうすることで凶は吉運になる。まあその辺はそこの説明に書いてあるけれどさ」
どれどれ、と思って僕達も箱を見て見る。
凶みくじ収め箱と書いてあって、説明は先輩が言ったとおりだ。
「本当だ。凶も開運や吉運になるんだね」
そんなものがあるのか。
「よし、やっておくのだ」
亜里砂さんはおみくじをきっちり折って結び、箱の中に入れる。
そして上にある矢の太い部分を思い切り握り、目を瞑る。
結構長いこと握りしめて、そして目をあげ一礼する。
「よし、これで大吉相当になった筈なのだ」
おいおい。
「3箇所の神様から努力しろと言われているんだから、まあ頑張れよ」
「私なりの努力をするのだ」
微妙な言い方だ。
なおよく見ると、同じような赤い箱はそこここにある。
亜里砂さんと同じように祈っている人もいる。
どうやらここの神社のおみくじ、本当に凶が多いようだ。
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