第350話 新年初の敗北

「実は年末におせち料理教室をした時の余りの昆布と鰹節を加工しただけ。梅干しも考えたんだけれど結構高いし」


「私も梅干しよりこっちの方が好きだな」


「皆そうならよかった」


 おにぎりそのものはコンビニの手巻きおにぎりより二回りは大きい感じ。

 でも綺麗に角が取れた三角形になっている。

 海苔は下部分、手で持つ部分だけ巻いてあるタイプだ。


「この形がいかにもおにぎりだよな」


「それは七橋先生が特訓したんだよな」

 先輩も参加したから知っているんだな。


「それでは、いただきます」


 僕はまずは昆布の方からいただく。

 うん、しっかり大きくて重くていい感じ。

 一口思い切りよくかじってみる。

 うん、美味しい。

 軽い塩味が効いている。

 更に中、おかずが入っている部分をがぶり。

 うん、いい感じの甘辛さ。


「美味しいな、これ。いかにも正しいおにぎりという感じで」

「いかにもハイキングという感じなのだ」


 うんうん。


「彩香はいいお母さんになれるのだ。悠が取らなければ私がつばをつけるのだ」


 うっ。

 おもわずむせそうになってしまった。

 何という事を言うのだ、亜里砂さんは。

 余りの台詞に彩香さんの方を見ることが出来ない。


「ちなみにこういうブラフをかけると本人の思っていることが良くわかるのだ」


 おい亜里砂!今のはブラフかよ!


「なおこれ以上悠で遊ぶと本気で怒りそうなのでやめるのだ」


 始末に負えない奴だなまったく。


「でもいいデータが取れたので満足なのだ」


「亜里砂、罰としてチキン没収!」

 置いてあったのを取り上げる。


「甘いのだ。すかさず悠のをゲット!」


 やられた。

 しかも亜里砂さんのチキンは2口かじった後だけれど、僕のは食べていない奴。

 そのチキンをがつがつと3口かじって亜里砂さんはにんまりと嗤う。


「これはどう見ても亜里砂の勝ちだな」


 先輩にそう判定されてしまった。

 うむ、仕方ない。


 俺も元亜里砂さんのチキンをかじる。

 うん、ジャンクな塩胡椒味がおにぎりに良く合う。

 おにぎりが美味しいし、さっきの亜里砂さんの台詞も何処か行ったようだし。

 まあいいか、という事にしておこう。

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