第339話 明るい夜

 ケーキ争奪戦は未亜さんの勝利に終わった。


「喰意地と執念の勝利なのですよ」

 そんな事を言って未亜さんはガッツポーズを取る。

 それでも結局は皆で少しずつ分けて食べたのだけれども。


「もうすぐ就寝ですけれど、その前にちょっと外に出てみませんか。またさっきと違う感じがすると思いますよ」


 先生がそう言うので皆で出てみる。

 一段と寒い。

 でも意外に思った事がある。


「思ったより明るいでしょう」


「本当だ、明るい」

 彩香さんの小さい声。


 そう、明るいのだ。

 月の明かりと星明かり、そして雪の白のせいだろうか。

 他のテントなんかもはっきり見える。

 月も星もいつも以上に光っている感じ。

 ちょっと不思議な幻想的な世界。


「星もよく見えると思います。これは月が落ちた明日の早朝、起きてすぐの方がもっと綺麗に見えるのですけれどね。

 さて、トイレに行って寝る準備をしますよ」


「はーい」

 という訳で、トイレに行って、そしてテントに戻って。

 寝る用のマットを敷き直して、寝袋と寝袋カバーをセットする。


「今日は人数が多いので、頭側と足側を交互にする形で寝ます。

 こっちから順に私、川俣さん、松岡さん、竹川さん、栗原さん、羽紋さん、仲代君で。あと1リットルの水ポリは枕にするか寝袋カバーの中で、靴もビニル袋に包んで寝袋カバーの中に入れておいて下さい」


 そんな訳でもぞもぞという感じで準備。

 僕の場合は横がテントの壁、隣が亜里砂さんの足や靴が入る寝袋カバー、その隣が彩香さんになる。


「こういう寝方も珍しいよね」

「登山だとよくやりますよ。テントがぎりぎりのサイズの場合も多いですから」


 でも見慣れないと何かシュールな感じだ。

 ザック等の荷物は頭側と足側の空きスペースに固めて置いてある。

 そんな訳で僕は寝袋カバーの中に寝袋を入れて、身体をもぞもぞ滑り込ませた。


 彩香さんとの間に亜里砂さんの足入り寝袋カバーがずるずる伸びてくる。

 うん、やっぱり何かシュールだ。

 そしてテントの緑色の壁を通して外の明かりが漏れている。

 月明かりと星明かりだけなのにこの状態でも結構明るい。


「何か楽しいね、こんな感じも」

 彩香さんが小さい声で僕に言う。


「そうだね、確かに楽しい」

 僕もそう思う。

 普通のクリスマスパーティより遙かに面白かった。


「それじゃ、おやすみなさい」

「おやすみなさい」

 色々やって疲れたせいか、今日はあっさり睡魔が襲ってきた。

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