第331話 雪山登山開始

「ついに来てしまったのです」


 朝8時30分に車は駐車場に着いた。

 既に駐車場は満車近い。

 何とか縦列駐車出来るところに車を入れて、朝食。

 弁当を食べてお茶を飲み、いよいよ出発準備。


「寒いですけれど、とりあえず下はスパッツと雨具ズボンのフル装備で、上はフリースに雨具でいいと思います。すぐに暑くなって汗をかきますから。暑くなりそうなら上の雨具も脱いで下さい」


「アイゼンはどうするのですか」


「とりあえずアイゼンは付けないで、ピッケルは持って行きます。テントを張る黒百合平まではおそらくアイゼンなしで大丈夫です」


 そんな訳で服装を整え、靴を履き替える。


「今回も一応使用前使用後写真を撮っておこう」

 とのことで車の前で記念撮影をして出発。

 ただ皆サングラスに耳の隠れる毛糸の帽子をかぶっている。

 これであとで写真から表情が読めるだろうか。

 体型と身長でどれが誰かはわかるだろうけれど、


 出発してすぐに唐沢鉱泉の前を通る。

『日本秘湯を守る会』の提灯があった。

「帰りは当然ここに寄るんですよね」

「ええ、下の立ち寄り湯と違って施設が色々ある訳では無いけれど、いかにもという作りのいい温泉ですよ」


 ああまた2時間待ちか。

 施設が少ないからそこまで待たないかな。

 そんな事を思いながら通り過ぎる。


 当たり前だけれど下は雪だ。

 何か片栗粉のようなぎゅっとした感触を踏みしめながら一歩ずつ。

 慣れていないので滑りそうで緊張する。

 実際はしっかり足の裏を付けておけばそう滑ることも無いのだけれど。


「回りが全部クリスマスツリー状態ですね」

「まだまだだな。上の方はこんなもんじゃない。ずっと綺麗だぞ」

「先輩は去年も来たんですか」

「ああ。特に朝は無茶苦茶寒いけれど凄く綺麗だぞ。この辺はまだまだ木も貧相だしさ。あ、でもあのカーブ辺りはいいかもな」


 今日は先輩が一番前で先生が一番後という隊列。

 そしてカーブの先、ちょっと雪が低い枝についているところで先輩は立ち止まる。


「見てろよ」

 木の枝を先輩がピッケルで叩く。

 キラキラッと粉雪が舞って、陽の光を受けてきらめいた。


「うわーっ」

 思わず歓声が出る。

 それ位綺麗だ。


「まだまだ先の方が綺麗だぞ。今日歩く時間は短いから、その分ゆっくり歩いていい。じっくり雪山を感じながら行こう」

 そんな訳でゆっくり歩いて。


 滑りやすくて怖い丸太数本を束ねたような橋(雪がついて凍っている)をおっかなびっくり渡ったり。

 態々キックステップ使って階段状に足場をつくって歩いたり。

 登りそのものは角度も緩くて歩きやすい道だ。

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