第326話 充分楽しんでも近場なので
更に亜里砂さんは完全に銃刀法違反の長くて細い包丁を取り出す。
「専用包丁もついでに用意したのだ。今日まで何回か味見ついでにカットの練習をして、薄く切ることが出来るようになったのだ!」
「ちょっとその前に記念写真なのですよ」
未亜さんがスマホを構え、巨大豚の脚まるごとハムを、全体の料理を含めて何枚も写真に撮る。
「冬だと外でもハエが来ないので、まったり食べられるのだ」
「そもそも野外で食べるものじゃないだろう。僕も食べるのは初めてだけれどさ」
「というか、普通の日本人は生ハム原木を買って食べるなんてしないのですよ」
「でもやっぱり美味しそうだよね」
「それは間違いないと思うぞ」
亜里砂さんがにやにやしながら切り口をカバーしていた皮部分を外す。
すでに何回か切ったらしく、切れ目がきっちり平面になっている。
そこをあの長くて細い包丁で薄く何枚も削り取って食器に盛る。
その様子を未亜さんが何枚も写真を撮った。
「さて、とんでもないものが出たけれど、取り敢えずスープも配っていただこう。それにそのサイズの生ハムは一気には食べられないだろ」
「父に言わせると、皆で食べれば1週間はかからないだろうとの事なのだ」
「でもいいの?これって相当高いんじゃないかと思うけれど」
「こういうのはノリで食べないと面白く無いのだ。だから11月終わりに届いた時から、何とか食べ尽くさないようにしつつ出番を待っていたのだ」
まあそんな訳で亜里砂さんの大物に話題が全て行ってしまったけれど、温かいヨーグルトトマトスープを配った後、
「いただきます」
となる。
ついつい全員、最初の箸が生ハムに伸びてしまう。
「今まで食べた他のハムと全然味が違うね」
「そうですね。塩がちょっと強めですけれどそれ以上にうま味が凄く濃いです」
「これサラダに巻くといい感じなのですよ」
最初に削った生ハムはあっという間に消えた。
「次は私が切ってみたいです」
美洋さんが生ハムカットに挑戦。
でも生ハムだけで無く、他の料理も当然美味しい。
「この煮物、いかにも日本の味って感じだよな」
「塩辛もなかなか美味しいのです。塩味かなり控えめなので、思い切りよくビリヤニに載せて食べるといい感じなのです」
「やっぱり甘辛い肉は王道なのだ」
そんな感じで全部の料理がどんどん減っていく。
生ハムカットも全員が挑戦してカット面が遂に骨まで到達。
「こうなったら、次はどうするんですか」
「もう少し削った後、ひっくり返して台に乗せるのだ」
そこで先輩がストップ指令。
「でも今日はこれで充分だろ。テスト終わりにもまた持込パーティやって食べればいい。先生にも見せてやりたいしさ」
「本当はもっと食べたいけれど、正論なのです」
そんな訳でハム再び切り口を皮でカバーし、新聞紙で包んでザックの中に収める。
他の料理も綺麗に空になった。
そんな訳でそれぞれ料理をしまって食器も片付けて。
「さて、名残惜しいけれど帰るとするか」
ザックを背負って立ち上がる。
なお、帰りは近道を通って帰る予定だ。
前進して次のピークが分岐点。
ハイキングルートは右に下りていくのだけれどそこを尾根沿いに左へ。
あとは細い道が尾根沿いに学校の裏側駐車場付近に辿り着く。
夏だと草などでわかりにくいが、この季節なら道もわかりやすいし歩くのも楽だ。
景色が今一つだし登る一方で面白く無いから行きには使わないのだけれども。
「今回の持込ハイキング、美味しかったですね。テスト後もまたやりたいです」
美洋さんの意見に全員が賛成。
「確かにどれも美味しかったな。美味く方向性が被らなかったしさ」
「強いて言えばあの生ハムは反則だったのですよ。美味しかったのですけれど」
「本当、またやりたいね」
そんな感じで持込ハイキングは満足のままに終わった。
なお、これだけ楽しんでも学校に着いた時間はぎりぎり午前中。
午後は未亜さん監督の下、テスト直前対策が行われたのは言うまでも無い。
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