第316話 今日の宿は無人小屋
その後は一気に辛い登山道になった。
はしごのような木の棚のようなところを手も使って一気に登ったり。
急すぎてロープが張ってあるところをじりじり登ったり。
それでも彩香さんもそんなに無茶苦茶疲れた感じに見えない。
先週の塔ノ岳もそうだったけれど、山を歩くペースが身体でわかってきた感じだ。
体力はそれほど向上していないようなのに、何故か歩ける感じ。
一気に登ったところで一休み。
更にちょっとだけ高くなった通称『偽ピーク』なんて感じの処で休んだ後。
今はもうすぐ頂上という山の稜線を歩いている。
先生がいつの間にか手提げ袋を取り出し、枯れ枝とかそんなものを探しては入れていた。
「それは何ですか」
「あとのお楽しみですよ」
何だろう。
そんな事を思いつつ歩いてテーブルとケルン?のあるちょっと広い広場に出た。
「ここが畦ヶ丸の山頂です。あまり見晴らしは良くないですけれどね」
それでも葉が落ちた木々の間から、山々の列が遠くに伸びていくのが見える。
静かな山中、という感じのいい場所だ。
取り敢えず畦ヶ丸山頂1292.6mと書かれた柱の前で皆で記念撮影。
「展望がさっと開けるこの前の山もいいですけれど、こういう静かな自然の中という感じもいいですね。何かずっとここでのんびりしたい感じです」
その気持ちも良くわかる。
まあ急登だのはしごだの色々あって疲れたせいもあるけれど。
「でも、この先にとっておきの山小屋があるんですよ。もう、ほんのちょっとのところですから。そこへ荷物を置いてから色々ゆっくりしましょう」
と先生がいうので、写真を撮っただけで歩き始める。
「山小屋バッチはあるかな」
「ここは無人小屋だからありません」
なんて言いながら歩いていって。
山頂からほんの少しだけ下りたところに、小ぶりだけれどしっかりした感じの小屋が建っていた。
「ここが本日の目標、畦ヶ丸避難小屋です。この時間ですから先客さんはいないと思いますけれど、いたらちゃんと挨拶して下さいね」
そう言って先生を先頭に中に入る。
中は無人、そして思ったより綺麗だ。
板の間とテーブルがある土間と、あとあれは何だろう。
三角の換気口みたいなものがついている金属製の容器がある。
「とりあえずザックをここに下ろして、ここの箒でさっと掃除して下さい」
ホコリをはいて、そして板の間に伸びる。
「ちかれたのだー!」
「確かに疲れましたね」
でも先生は何故かここにいない。
見るとあの金属製の容器みたいなものの蓋を開けて、何か見ている。
「大丈夫そうですね」
「それは何ですか」
彩香さんが尋ねる。
「薪ストーブですよ。これがあると雰囲気も温かさも全然違うんです」
先生はそう言って、手提げ袋から枯れ枝とか木の皮とか葉っぱとかを出して中に入れた。
「これでついてくれますかね」
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