第314話 渓谷と紅葉の山へ

 11月13日は深草学園の創立記念日だ。

 今年はそれが金曜になる。

 13日の金曜日なんて何か出そうだが、ここの連中は全くそんな事気にしない。

 何せよく考えれば狐に猫又に魔女の集団を神主が率いているわけだ。

 そんな事気にする必要も無いだろう。


 今回はゆっくりと皆で夕御飯の買い物をして、登山口についたのは11時。

 駐車場から登山口までの通路がまた綺麗だ。


「今が紅葉、一番見頃なのでしょうか」

「そんな感じなのです」

 美洋さん未亜さん2人がそんな事を言って。


「今日は見晴らしという意味では今一つですけれど、その分沢や滝、紅葉が綺麗なコースです。歩きづめだと3時間ちょっとのコースですけれど、どうせですからあちこちを見ながらゆっくり歩きましょう」

 先生がそう宣言する。


「確かに森林浴だな、これは」

 先輩もそんな事を言うくらい。

 薄い緑色に塗られたしっかりした作りの吊り橋を渡って対岸へ。


「ここの川も綺麗ですね。夏だと遊びにちょうどいい感じです」

 彩香さんの言葉に僕も同意。

 環境といい水の綺麗さといいいい感じだ。


「残念ですけれどね、ここも温かい季節はヒルが出てしまうんです。私が大学生だったころは西丹沢は大丈夫だったのですけれどね。だんだん西へ西へ広がっている感じで。ですから丹沢に来るのは今では11月過ぎからですね」


 うっ。

 確かにヒルがいるのは嫌だな。

 気持ち悪い。


「ただこの季節はもういないから大丈夫ですよ」

「これだけ寒ければもう動けないだろ」


 ちなみに気温は10度を下回っている。

 先週より更に寒くなった感じだ。

 彩香さんは先生から借りたフリースをまだ着込んでいる。

 僕は毛と化繊混紡の襟のある長袖シャツだけれど。


「それにしてもいかにも秋の綺麗な登山、ってかんじだな」

 先輩が回りを見回しながらそんな事を。


「先輩はここに来るのは初めてですか」


 先輩は頷く。

「ああ。昨年は自転車で三浦半島半周だった。テントも持って」


「それも楽しそうなのだ」

 亜里砂さんの感想。

 僕もそう思う。


「でも実は道がそれほど広くないし、車通りは多いし、なんと言っても坂が多いんだ。美野里先輩だけは変速段が多くてすいすい行くけれど、他は先生含めて結構大変だったんだぜ。あれは結構きつかったな」


 そんな事を言って歩いていると、丸太5本に板を打ち付けた簡素な橋が出現。

 何かいかにも山道ですよと言う感じでいい。

 沢も綺麗だし。


「滑るなよ」

 そんな事を言いながら注意して渡る。

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