第17章 本格的に登山をします

第303話 登山へのお誘い

 さて。

 文化祭の片付けもほぼ終わり。

 ホットプレートで残ったクッキー生地を焼いていた時。


「そういえば本格的な登山はまだ行っていませんでしたね」

 先生がそんな事を言い出す。


「本格的な登山って、ハイキングとどんな処が違うんですか」


「基本的には同じなんですけれどね。ハイキングでも道迷いをしたり事故に遭ったりすることがありますから。ある程度高い山の山頂を目指して登るのが登山で、標高差300以内の処を歩くのがハイキングでしょうか。

 登山の方が高い場所に行きますし、時間も距離も長かったりでその分色々な装備と注意が必要です。ただその分非日常感も、達成感も大きいですよ」


「秋津の皆さんは秋休みで北岳に登ったそうなのです。1泊2日で確かに綺麗だったけれど、体力ボロボロになったそうなのです」


 未亜さんが恐ろしい事を言う。


「小暮先輩はスパルタですからね。北岳は日本で2番目に高い山ですし、メインの登山口からの標高差が1700メートル弱ありますから。あそこは他に本格的な沢登りもしていますし。まあ高校生主体だから体力的には充分なんでしょう。

 うちの野遊び部は中学生なので、そこまで厳しい登山はしないつもりです。まずは丹沢の塔ノ岳という山に日帰りですね。標高差1000メートル位の日帰りです」


 僕はちょっと考える。

 それって……


「標高差1000メートルの日帰りって、1泊2日の標高差1700メートルより、数字上は厳しいような気がするのですよ」


 未亜さんも僕と同じ事に気づいたようだ。


「数字上はそうなんですけれどね。登山は基本的に行きは登るメイン、帰りは下りメインなんです。縦走だと少し変わりますけれどね。ですから1泊2日の標高差1700メートルですと、1日目に実は標高1600位を一気に登ることになるんです。ですから実際は標高差1000の日帰りの方が遙かに楽ですよ。


 私の経験だと、普通の体力があればだいたい1時間で標高差400メートルくらいは無理なく登れるんです。むろん実際は登山道の状態によって変化しますけれど、大体の目安として。

 ですから実際頑張るのは全部で2時間半程度。そう思うとそんなに大した事は無いです。あと景色は高いだけあって最高ですよ」


 騙されていないよな。

 実は行ったのを後悔する位に辛かったりしないよな。


「今の季節の山は確かにいいよな、虫がいないしさ。空気が澄んでいて木の葉が落ちているから見晴らしが良くなるし。あと程良く疲れたところで景色を見ながら食べる飯は抜群に美味しいぞ」


「乗ったのだ!」

 亜里砂さんが真っ先に食いついた。


 一方、彩香さんは。

「私の体力でも大丈夫でしょうか」

 ちょっと不安そう。


「大丈夫大丈夫。確かに足のリーチの分彩香が一番不利だけれど、今の彩香の体力だったら充分に登れる」


「何か楽しみになってきました」

 美洋さんがこう言い出すともう止められない。

 つまり登山は実行、という事だ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る