第298話 ここまでは確認事項
「未亜さん。美洋さんのお父さんがやっている事は、里にとっては『里の維持』だと思う?それとも『里の終わりの始まり』だと思う?」
美洋さんは驚いたように目を見開いて、そして未亜さんは頷いた。
「同じ事を雅彦さん本人が言っていたのですよ。『僕はこの里をもっと後の世代に残すため、最善の方法を考えてやっているつもりだ。でも結果的にはこの里の『終わりの始まり』の引き金を引いてしまったかもしれない』って」
「『だから美洋も未亜も里の事はあまり考えなくていい。むしろ今は里の外の色々を自分の目で見て感じて、自分が何をしたいかを里にとらわれず考えて欲しい』って。この学校に来る前にそう言われたのです。でも、何故それを」
うん。
美洋さんはきっと近すぎてかえって気づけないのだろうけれど。
でもきっと。
「なら出るにせよ残るにせよ、里の事はお父さんに任せておくのが最適解なんだろう。情緒的な事は置いておいて」
「その通りなのです」
未亜さんには通じた。
「どういう事?」
未亜さんにはすぐには通じない。
多分、色々と近すぎて。
「他人の、それも中学生が言うのも変かもしれないけどね。閉じた状態の社会を外側の情報を受け入れつつもそのままでいる事はきっと無理なんだ。江戸時代の鎖国とか現代の某国のように知識を制限しない限りね。
無論考えの固まってしまった人を変えるのは難しいというか無理。でも年月単位でみると人そのものも入れ替わっていくんだ。それこそ十年単位くらいで見ればね。
だからきっと、美洋さんのお父さんが外の空気を入れてしまった時点で。もう里は変わっていく事が決まってしまったんだ。そしてそれを一番わかっているのが変えた本人、美洋さんのお父さんなんだと思う。だから最初に未亜さんに聞いたんだ。維持なのか、終わりの始まりなのかって。まさか本人も同じ言葉を使っているとは思わなかったけれど。
そして物事を動かす力なんてのは結局は暴力か資力なんだ。中学生が言う事じゃ無いけれど、歴史的に見てね。資金力はもうわかっている。そして未亜さん、術士の次代がここにいるという事でもう一つの力の方も想像がつく。だから抵抗勢力は抵抗する以外には何も出来ない。時間と共に流されるだけ。もっと頭がいい人が出てくれば別だけれども。
未亜さんの採点で、どれ位当たっている?僕の想像」
「ほぼ満点をつけていいと思うのです」
未亜さんは頷いた。
「ついでに言うと術士のうち、今代の金は完全に竹川家側、白は完全な中立、黒は本来は桐平家側なのですが、柾さんの件もあって現在は空席なのです」
何となく予想通りだ。
なら更に一歩、踏み込んでおこう。
「更にこの際だからあえて確認しておくよ。未亜さんは少なくとも今は自分の意志でこの場所にいるんだね」
「色々考えもしたし悩みもしましたが、その通りなのですよ」
「それを前提にこの先の話を続けていい?」
「いつかは必要な事なのですよ」
未亜さんははっきり頷いた。
僕が言いたいことが通じたのがわかった。
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