第299話 未亜さんの立場

「どういう事なんですか、今の言葉は」

 そしてやっぱり美洋さんには通じていない。

 でも、だからこそ。

 ここからは注意深く話さなければならない。


「里のことついでにお父さん関係をまとめておこうと思って」

 僕はそう言ってどう話を流そうか頭の中で確認する。

 時系列順にするか、それとも僕が気づいた順番にするか。

 ちょっと考えて、僕が説明しやすい方で話す事にする。


「気づいたのはさっきの話をまとめようと考えていた時なんだ。里を残すために変えようとして、抵抗があるのを覚悟して。その時に心配になるのは何だろうって。

 答は簡単。やっぱり自分の家族の安全だろうなと思う。術とかを使える人間が多い中だ。身の安全だけじゃない。精神的なものまで含めた安全。


 そして美洋さんの安全の為に考えた結果が、多分未亜さんの存在なんだ。そして未亜さんの役目は美洋さんの身辺を守るだけじゃない。美洋さんの思考と行動の自由の両方を守ること。里の狭さにとらわれずもっと色々な視野を持たせること。


 そして未亜さんや僕みたいに頭でっかちのこまっしゃくれたガキんちょに言う事を聞かせるなんて、ある程度頭のいい大人や元同類なら簡単だ。相手も対等の人間とみて、対等の契約なりお願いを持ちかければいい。

 それは多分小学1年生の時、未亜さんをスカウトした時点ですでにそういう話をしていたんだと思う。契約とお願い、どっちだった?」


「両方なのですよ」


 未亜さんはあっさりそう答えた。


「身辺警護の対価として衣食住と私の望むまでの教育を受けさせてもらうのが契約。美洋の友達になって欲しいというのがお願いだったのです」


「何で。何でそんな事を……」


 やっぱり、美洋さんは気づいていなかったらしい。


「更に言うと未亜さんの叔父さん一家が亡くなったのも、偶然じゃ無いかもしれない。美洋さんのお父さんと別の側の誰かの意志があったのかもしれない。だからこそ美洋さんのお父さんは用心をしたのかもしれない。その辺りは推測だから実際はわからないけれどね」


「そこは立場上、ノーコメントと言っておくのです」

 未亜さんは律儀にそう返答する。


「ついでに言うと、未亜さんが美洋さんの友達をやっているのは、少なくとも今は強制ではなく自分の意志での筈。ついでに言うと未亜さんが家族同然に暮らしていたのも、少なくとも途中からは嘘じゃ無い。実際、未亜さんと美洋さんのお父さんはきっと仲が良かったのだろうし色々話とかも合ったんじゃ無いかな。それこそ実の娘の美洋さんとは話さないような事まで」


「ちょっと待って下さい!」


 美洋さんがそう言って。

 そして付け加える。


「全部、状況としてあっているんです。私から見た限りその通りなんです。未亜と父が私以上に仲がいいのを含めてその通りなんです。

 でも、何故悠さんはそんな事がわかるんですか。未亜が私と一緒にいてくれるのは父の為なんですか」

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