第256話 今度の獲物はマテバシイ
更に完全に下りる前に。
先輩が山芋のムカゴを発見。
これもしっかりキープして下山。
「私も気を付けているのですけれど、やっぱり気づかないのです」
「多分来年には気づくようになると思うよ。私もそうだからさ」
そんな事を言いながら人家近くの細い道路を通って。
川を渡って向こう側の楠木山へ。
「今度のドングリはもう見た目ですぐ違いがわかる。とにかく細い。そして丸みが無い。そんな訳で距離は短いけれど、頑張って拾ってくれ」
ということで再び登山開始。
「一度降りると、登るのが結構大変なのだ」
やっと亜里砂さんも疲れを感じてきたようだ。
「今度の登りは大したことないからさ。それにこっちの山の方がドングリを拾うのが楽な筈だ。それに先生の家も近いしさ。まあのんびり行こうや」
確かにドングリが見つけやすい。
多少道から外れていてもすぐに見つかる。
ただドングリそのものの数が先程に比べるとあまり多くない感じだ。
「昨年が大豊作だったから、その分今年は少ないかな。ドングリは大体豊作と不作を毎年繰り返すからさ」
「でも拾いやすいし見つけやすいのですよ」
未亜さんがそんな事を言う。
「何故見つけやすいと思う?」
先輩がそんな事を聞いた。
何故だろう、と僕も考える。
確かに未亜さんの言うとおり、こっちの方がドングリを拾いやすいのだ。
でも、何故かと言われると……
でも。
「下草が少ないのです。他の植物があまり生えていないのです」
「正解だ。さすが未亜」
先輩がパチパチと拍手をした。
「その通り。スダジイの林に比べるとマテバシイの林は下草が圧倒的に少ないんだ。理由は簡単で、マテバシイの方が葉っぱが茂って、下に日光を通さないんだな。だから結果的に下草が生えず、おかげでドングリが拾いやすい。まあ私も昨年先輩にこのことは聞いたんだけれどさ。その時同じ質問をされたけれど、私は未亜みたいに理由を答えられなかったな」
そうか。
確かにあまり草が生えていないのだ。
だから道で無い処に落ちているドングリにも気づける訳か。
「この辺のマテバシイは元々生えていた物では無く、植樹されたものだそうだ。マテバシイの木が東京湾のノリの養殖のホダ木にちょうどいいらしくてさ。何故そうなのかは私も知らないけれど。ただそんな訳でマテバシイの林は歩きやすいしドングリを探しやすいけれど、お宝はそんなに無い。蘭の仲間の日光を嫌う種類がある程度生えるらしいけれどさ。以上で蘊蓄は終わり。拾いやすいし大きくて使いやすいから、取り敢えず拾えるだけ拾って帰ろうぜ」
そんな感じで。
不作という割にはそれぞれそれなりの量を拾って。
山を下りきったところから10分も歩けば見覚えある先生の家だ。
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