第238話 差し入れの予約

「未亜、厳しい」

「お飾りとして生きていくならそのままでもいいのです。でも逃げるか立ち向かうかするならそれなりの力が必要なのです」


 何のことだろう。

 でもその言葉は美洋さんには通じたようだ。

 美洋さん、ちょっと間をおいて、そして小さく頷いた。

「そうですね、未亜は正しい」


「ならよし。ところで亜里砂さんとは誰なのですか?B組は里出身者以外はあまり知らないのです」

「私も名前だとわからないです。教室では極力姓の方で呼ぶようにしていますから」


 何か美洋さんも色々ありそうだけれど、今はそっちの話題じゃ無い。


「姓は波紋さん。茶色い天然パーマに白い肌の留学生風の子だよ」

 美洋さんはちょっと考える。


「あ、ベジョータさん。でもあの人の名前は確か、ハモン・デ・ベジョータ・イベリコって聞いたような気がするけれど」


 未亜さん、先輩、そして運転中の先生まで吹き出す。

 その辺は意味がわかったらしい。


「それだと最高級のイベリコ豚になってしまうのです」

 代表して未亜さんがそう説明。

 その通りだ。

 なら説明してやるか。


「波紋さんの正しいフルネームは波紋・セラーノ・亜里砂さん。日本人の波紋さんと母親が結婚してそういう名前になったんだって。で、本人はハモン・セラーノだと山育ちの白豚になってしまうから、どうせならもっと高級な豚ということでイベリ子って勝手に名乗っている訳」


 未亜さんが頷いた。

 彼女はいまので色々と理解したらしい。


「でもどうやってそういう生ハムな人と知り合ったんですか」

「夏に学校のプールに通っていて知り合ったんです。夏休み暇だったので毎日学校にプールに通っていたら、亜里砂も同じように通っていて」


 この辺の紹介は彩香さんに任せておこう。

 魔女と明かしていいのかまでを含めて。

 それにしても未亜さんは流石に色々知っているな。

 生ハムな人と言った辺りで全て理解している事がわかる。

 なお美洋さんが理解出来ているかどうかは微妙だ。

 その辺は未亜さんに任せておこう。


「なら明日は差し入れを持って行ってやるよ。だから昼飯は用意しなくていいぞ」

 先輩がそんな事を言ってくれる。


「ならいくらか集めますか」

「大丈夫。ただベジョータ、いや亜里砂さんは何かアレルギーがあるかわかるか。それによって材料を調整するから」


 やはりあの自称はインパクトが強すぎたか。

 まあそれはそれとして。


「確認してみます」

 彩香さんがスマホを取り出して何か打ち込む。

 すぐに返事が返ってきたようだ。


「アレルギーは無いそうです」


「ならいい。折角後輩が頑張っているんだ。久しぶりに腕を振るうとするか」


「何を作るんですか」

 先輩はにやりと笑う。


「秘密。明日のお楽しみだ」

 何だろう。

 普通に考えたらビリヤニかカレーか。

 でも先輩は洋風も和風も作れるんだよな。

 しかもかなり上手に。

 これはちょっと楽しみだ。

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