第191話 ピザ大会の犠牲

 そんな訳で翌朝。

 外は大雨の中。

 ピザ作り大会が始まる訳だ。


「レンジの大きさを意識して下さい。丸型でも四角型でもいいですから」


「厚さはどれくらいまでなのですか」


「焼く前で1センチが限界です。それ以上は焼く時間が変わってしまいますから」


 川俣先輩、高校生の先輩相手に微妙にいつもと言葉遣いを変えて説明。

 あとはこねこねしたり伸ばしたり。

 トッピングを冷蔵庫から適当に選んで切って載せたり。


 なお伸ばす綿棒は3本しか無いので順番制だ。

 僕は面倒なので何回か捏ねた後手で伸ばしてみた。

 でもレンジでやく順番もある訳で。


 ちなみにここのガスレンジは棚を3段作ってピザ3枚をガスで焼けるタイプ。

 ガスコンベックオーブンレンジなんて長ったらしい名前の奴だ。

 なお一応市販品らしい。

 設置に専門業者が必要らしいけれども。


「うーん、ピザを作るなら小魚でアンチョビを作っておくべきだったのです」

 佳奈美先輩が言う。


「どっちにしろ塩して洗って浸けてでは1週間で間に合わないのですよ」

 そう美菜美先輩が返して。


「でも今日以降、小魚が大量に取れたら作ってみてもいいかもしれませんね」

 草津先生がそうコメント。


「小魚らなら、その気になれば幾らでも釣れますね」

 美洋さんがそう言って。

 きらーんと目を光らせたような気がした。

 これは絶対アンチョビ作る気だな。

 そんな気配を感じつつ。


 僕が作った1枚目はオーソドックスな感じのピザ。

 サラミの代わりに燻製ソーダカツオの薄切り載せて。

 ツルナの葉っぱで緑色アクセントつけて。

 見かけは地味だが美味しい自家製ツナ缶もどきを載せて。

 ソースはオーソドックスにトマトソース。


 焼いたのち、何とか作った人間の権利として4分の1はキープ。

 うん、これは正しい味だ。

 自分で食べて納得する。


 他はオーソドックスから色物まで。

 燻製干物をほどいたもの+マヨネーズ+チーズもなかなか美味しかった。

 あれは誰の作品だったのだろう。


 何せ焼けるたびに争奪戦だ。

 焼くのに1回4分少々。

 ピザにありついた人も食べきるにはちょうどいい時間な訳で。

 だから獲物を狙う野獣は常に多い。

 おかげで控えめな男性陣はなかなかピザにありつけないのが実情だ。


「ピザにするには癖のある味の方が合いますね」


「でもスズキの白身と葉っぱとバター&チーズの上品な感じも美味しかったです」


「しめ鯖の大きいのにトマトソースかけまくったのもいけたのですよ」

 なぬ!」

 どこからか聞こえたそんな意見が引っかかる。

 おいそれはちょっと待ってくれ。

 そのしめ鯖は僕のとっておきだった奴じゃ無いよな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る