第5話 お勧めはクエン酸です

「私のお勧めはクエン酸ね。でも多くても耳かき一杯程度まで。あとフッ化水素のような危険すぎる薬剤は鍵付きの棚に入れています。だから大丈夫ですよ」

 草津先生がそう追加説明する。

 でも先生それで本当にいいんですか。


 僕の疑問の表情に気づいたのだろう。

「ひょっとして酢酸の方が好みですか」

「違います」

 匂いが酷くなりそうだ。


 まあそれはともかく。

 僕は用件を思い出した。

「先日は申請書類や学校案内等、本当にありがとうございました。加茂先生からも宜しくお伝え下さいとの事でした」


「加茂君は元気?」

「まあいつも通りです」


 加茂先生の元気というのは良くわからない。

 基本的に仕事に追われ常にゾンビ状態だから。


「相変わらずって事ですね」

 草津先生は理解したようだ。


 そして。

「2人いますし自己紹介しておきましょうか。

 私は草津純、今は中学の3年A組の副担任で、中学の理科全般を担当しています」


「私は川俣かわまた音子おとね。2年A組。低血圧なんで放課後は大体ここのソファーで寝ている。まあ気にしないでくれ。あとこの金髪は自毛で昇任済み」

 なるほど。


「あと加茂君というのは仲代君の小学校の先生で、私の従兄弟ね。私は音義おとよし君と名前の方で呼んでいますけれど。

 うちは親戚一同教員ばかりという教員一家でね。私も公立志望だったんだけれど倍率が高くてはねられてしまった訳。まあ音義君の苦労を見ていると私立で良かったとも思うのですけれどね」


 確かにそうだ。

 授業以外にも課外活動やら保健室登校の生徒の指導やら色々やっていた。

 それでも、と僕は思う。


「あの学校では一番いい先生です。僕の知っている限りでは」

「そう言ってくれると嬉しいですね。確かにいい先生なのは間違いないと思います。

 さて、紅茶どうぞ。遠慮しないで」


「失礼します」

 僕と栗原さんはビーカー入りの紅茶をいただく。

 何と表現していいのか知らないが香りは凄くいい。

 自宅にあったティーパックとは雲泥の差だ。


「美味しいです」

「良かった」

 これはあの金髪の先輩だ。


「実家で買って直接送って貰っているんだ。日本で買うと高いからさ」

 そう笑顔で言われると。

 結構きれいだなとも気づいてしまう。

 短い金髪、少し色の薄い人懐っこそうな目、白い肌。

 最初は男女不明なロッカー風なんて思ったけれど。


「ところで先輩は何故この部屋にいるんですか」

 その雰囲気につられ、ついつい僕は聞いてしまった。

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