第4話 怪しい金髪の先輩

 専門教室棟2階の階段脇。

 『理化学実験準備室』と名札が出ている。

 小さく横に『火気管理者:草津純』と出ている。

 間違いない。


「ちょっと待っていて。挨拶してすぐ戻ってくるから」

 栗原さんが頷くのを確認。

 僕は扉をノックする。


「1年A組仲代と申します。草津先生はいらっしゃいますでしょうか」


 台詞を全部言う前に。

「どうぞ」

 と中から聞こえた。


 扉を開ける。

 薬剤の棚に器具の棚。

 専門書らしい本が並んだ本棚。


 その奥に応接室みたいな部分があって。

 黒い長椅子に金髪のロッカーみたいな生徒が横になっていた。

 スカートをはいているから女子か。

 中性的な感じでわかりにくい。


 さらに奥に机がある。

 そこに小柄な大人の女性がいた。

 割と若い。

 20代半ばくらいかな。

 彼女が草津先生だろう。


「どうぞ。あとそこの付き添いの生徒さんも一緒に中へ」

 そう言われたので僕の後に栗原さんがついてくる。

 ちょっと恐る恐るという感じだ。

 どうやら栗原さん、若干人見知りの傾向もあるらしい。


「はじめまして。ここの受験の際に加茂先生を通してお世話になった仲代です」

「かしこまらないでそのソファーに座って、2人とも。今お茶をいれますから」


 横になっていたロッカー系女子生徒がふらっと立ち上がる。

 そのまま部屋の奥へふらりと歩いて行って。

 お盆に紅茶をといくつかの瓶、薬匙を入れて戻ってきた。


「悪いな。ここは大体コップをこれで代用しているんだ」

 金髪だけれど何か人なつっこそうな感じだ。

 なおコップ代用は実験用の300ミリのビーカーである。

 ただ中の紅茶は綺麗な茶色。

 香りもなかなかいい感じ。


「あと砂糖はそこのグルコースの瓶から匙で入れてくれ。レモンが欲しいならその辺の薬棚から適当な酸を取って入れてくれ」

 おいおい。

 適当な酸なんて言ったら。


「間違ってフッ酸入れたらどうするんですか」

 彼女が話しやすそうな感じだったので。

 つい思わず僕は突っ込みを入れてしまった。


 先輩らしき女子生徒はにやると笑う。

「その場合は簡単だ。彼は運が無かった。以上だ」

 おいおいおい。

 死んでしまうがな。

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