第12話
「キャー!!若様ー!」
クムのお付きの女官が叫びながら、クムへ駆け寄った。クムから遅れて付いてきたので、何が起きたのか分かっていないようだ。ただ、自分の主人が木刀を手で受け止めた様子はハッキリと見ることは出来たようだ。
「お医者様を!早く!」
わらわらと集まってきた他の女官たちに支持を出す。
「待て!」
強い口調で、クムはそれを止めた。
「大丈夫だ。大事ない。」
騒ぎ出した女官たちにクムは冷静に話した。
「でも…」
納得のいかないような女官たちを落ち着かせるように静かに制するように話すクム。
「俺が大丈夫だと言っているのだから、大丈夫だ。少しこちらで休んでいくから、お前たちは下がってろ。」
そう言うと、クムはフェイを見た。フェイは、状況が分かっていないような顔をしたが、クムが自分の部屋で休みたいのだと判断すると、静かに頷き
「こちらへ…」
と小さく答えながら誘導した。
その様子に女官たちは納得いかない様子であったが、渋々という感じで二人を見送った。ただ茫然としていた男をギラリと睨みながら。
フェイの後に続くクムは尋ねる。
「あの男は?」
「あの者は、私の連れだ。小さな頃から一緒に過ごしていた兄のような…」
途中まで話すと、フェイを遮るようにクムは言った。
「おい。言葉遣いは?」
「こんな時にっ…!」
クムの指摘に言葉を飲み込んだフェイは、クムを見る。すると、クムはいたずらっ子ぽくフェイを見返し、負傷した手をフリフリを振った。
先程、自分を庇ってくれた時には、あんなに鬼気迫る感じであったのに。そうフェイは思う。しかし、今ここで平気そうに振舞ってくれている様子は、ありがたいのも事実だ。先程木刀を受けた手も痛むだろうに、そんな素振りも全く見せない。案外、この王子は空気を読むことに長けており、場を和ませてくれているのかも…。
「兄のような存在の者です。」
部屋へと向かう間、改めてフェイは説明した。
その男は、フェイと共に育ちクムの祖父に剣術や護身術を学んでいたそうだ。今回、緑宝宮にフェイ達が来る際、用心棒のような役割として付いてきたのだった。先日、無事にカヤ一行を緑宝宮に送り届けた後、少し都を見物してからフェイの元へ戻ってきたそうだ。
先程は、身体がなまってしまったと感じたフェイに催促されるかたちで、護身術の稽古をしていたとのことだった。
フェイの部屋へ入る前に、一通り男の説明を終え扉を開ける。
カヤの部屋の扉と同様に、質素な作りの扉だ。その扉の前には事情を知らない女官たちが、忙しそうに掃除などしている。女官たちは、普段来ることのないクム王子が現れたことに驚いた。
「ま…まぁ!クム王子様!」
慌てて頭を下げる女官たち。その何人かは、普段こんなに近くで見ることのない王子を前に顔を真っ赤にしている。
しかし、それを見てクムはうっとおしそうに、
「もう掃除は良い。下がっておれ」
と冷たく言い放った。
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