第11話
コウの思いつきのような家庭教師だが、あれから都合のつく日は集まることが続いていた。しかし、それはある日を境に中止になってしまう。その出来事は家庭教師をまだ片手で数えるほどしかしていない頃だった。
その日もクムは、嫌々ながらという感じで家庭教師という名目でフェイの元へと向かっていた。
「別に、俺が居なくても良いではないか…」や「何で俺まで…」とぶつくさ言っている。…が、にやける顔を必死に抑えているようにも感じられる。ぶつくさ言い、不満そうに見せることで、フェイと仲良くなりたい気持ちを隠しているように。いや。本人は、そんな気持ちに気が付きたくないのかも知れない。
実際、クムに従っている女官が、
「そんなにお嫌でしたら、私からフェイ様にお断りを致しましょうか?」や「いくらカヤ様のお知り合いだからと言って、クム様のようなご身分のお高い方がわざわざお時間を割かなくても…」などと、やんわりとフェイの家庭教師の件を辞めさせようとしていたのだが、そのたびにクムがムスッとしてしまう。そのため、この件に関して誰もクムに言えなくなってしまったくらいだ。女官たちは、この言動と行動が一致していないクムに呆れかえっている。
フェイの家庭教師は、大抵コウの部屋で行っていたが、その日はコウの部屋に来客があるというので、フェイの部屋に集まることになった。
いつものごとく、ぶつくさ言いながらフェイの元へと向かうクム。その手には、たくさんの菓子が詰め込まれた袋を持っていた。何回目の家庭教師からか、クムはフェイの好きそうな菓子を持ってくるようになっていたのだ。
フェイの部屋はカヤの部屋と隣接している。カヤの小さな庭に差し掛かる頃、庭の奥から男の声が聞こえてきた。
「ハッ!」
それに合わせてガツンと何かがぶつかる音がする。今度は
「くっ…」
と、何かを耐えるようなフェイの息遣い。クムは何事かと思い、急いで庭の奥へと走った。手に持った袋からは菓子がかしゃかしゃと割れる音がする。しかし、そんなことはお構いなしでクムは進んだ。先程聞いたフェイの声から推察すると、ただ事ではない雰囲気がしたのだ。
庭の奥に息を切らしながらたどりついたクム。すると、フェイに向かって見知らぬ男が木刀を振り下ろしている光景が、目に飛び込んできた。
「フェイ!!」
持っていた袋を投げ出し、フェイの前に飛び出るクム。咄嗟に、フェイの頭を抱きかかえ、振り下ろされる木刀を右手で受けようとした。
急に出された手に驚く男とフェイ。男は、振り下ろした木刀の行き先を変えようと腕に力を入れたが、それも空しく木刀はクムの右手のひらに当たってしまった。
ぐしゃっ。
鈍い音が庭に響く。
「クム王子!」
クムに抱かれたフェイは、大きな声で叫んだのだった。
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