第6話
「はい、あ~ん」
コウは、菓子をフェイの口元へ持っていく。フェイは、恥ずかしがっているが菓子への誘惑に負けたのか、あ~んと口を開き、パクリと菓子を食べた。そして、その菓子の美味しさに、フェイは驚く。上品な甘さの餡に感動しながら、むぐむぐと口を動かす。うっとりとした表情で菓子を頬張っているフェイを、ニコニコしながら見つめるコウ。それに気が付き、フェイはごくっと菓子をのみ込んだ。
「恥ずかしいから、そんなに見ないでくれ」
コウは、片眉を上げてチッチッと口を鳴らす。
「『見ないでくれ』じゃあ、ダメだなぁ。もう一度、やり直し」
そう言うと、菓子をまた一つつまむ。つままれた菓子の行方を目で追いつつ、悔しそうな表情のフェイ。
「み…見ないで下さい」
「良くできました」
コウはそう言うと、満足そうにもう一度菓子をフェイの口許に持っていく。
この状況の元凶は、数時間前、王に会ったあの時にあった。カヤとフェイが王との挨拶を済ませ、部屋へ戻ろうとした時に、王が「何か困ったことがあったら、何でも相談しなさい」と、声をかけてきたのだ。「ありがとうございます」と答え、頭を下げるフェイ。カヤも王にお礼を言い帰ろうとしたところ、何かを思い出したように話始めたのだ。
「そういえば、この子は言葉遣いがあまり良くなくて…。どなたか良い家庭教師がいれば良いのですが」
このやり取りを、椅子から身を乗り出したまま聞いていたコウは、ニコッと笑い上げた手をヒラヒラと振った。そして
「お嬢さんは、お菓子はお好きかな?」
と、フェイに訊ねる。
急な質問に面食らいながら
「はぁ。好きですが…」
と、フェイが答える。
「それは良かった。王様にカヤ様、フェイ殿の家庭教師は、僕にお任せくださいませんか?」
コウのこの申し出に王もカヤも賛成し、現在このような状況になっているのだった。
フェイは、口許にある菓子を手で取ろうとするが、ヒョイと菓子は逃げていく。ムッとした表情でコウを見るが、そんなことはお構い無しの様子だ。むしろ、楽しんでいるようにも見えた。
「ダメダメ、自分で食べようとしちゃあ。僕から食べさせてもらうって所が、ミソなんだから」
コウは、フェイの口許へ持っていった菓子を、今度は自分の口へと放り込んだ。
「ほら。自分で菓子を持っていると、食べたい時に食べてしまえるじゃあないか。それに、僕に食べさせてもらえるなんて、その辺の女子は、泣いて喜ぶことなのだよ」
は~と、ため息をつきフェイは言った。「私は、その辺の女子とは違って、菓子は自分で食べたいんだが。菓子は、コウ様が食べて良いと言った時にしか食べぬ。だから、自分で食べさせてくれ」
それを聞いて、今度はコウがため息をつく。
「はいはい。また、言葉遣いが戻ってるよ。僕に意見するなら、その言葉遣いを直してからにしなさいね」
更に険悪になっていくフェイとは対照的に、コウはにこやかにフェイを見つめるのだった。そして
「さあ、僕と楽しくお話をしながら、言葉遣いを直していこうじゃないか」
と、言いながら菓子を一つつまむ。
「良くできた子には、お菓子のご褒美付きだよ」
諦めたように、フェイは答えた。
「よろしくお願いします」
「良くできました」
そう言いながら、つまんだ菓子をフェイの口許へともっていくのであった。
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