第2話
「おいおい。どうした?そんなに大声出して」
クムをからかう様に、話しかけてきた男。彼は、クムの叔父であるコウだ。叔父と言っても、クムより5つ年上なだけなので、叔父というより、クムにとっては兄の様な存在である。
「コウ!いつ緑宝宮に?」
クムは嬉しそうにコウに尋ねた。
「ついさっきね。カヤ様が緑宝宮に戻られたと聞いて、カヤ様にご挨拶がてら兄上にもお会いして媚を売っておこうかと思ってさ」
ニシシと笑いながら、手に持っている高価そうな布に包まれた物をひょいと上げて見せた。コウが持っている包みの中は、さしずめ父の好きな菓子などだろう。遠方に住むコウは、緑宝宮に来る度に父の好物や珍しい遠方の菓子などを携えて挨拶に行くのだ。
「さて、僕の甥っ子は、なぜそんなに怒っているのかな?そこの素敵な女性が、怯えているじゃあないか」
コウは、サラリと女性を誉めることのできるタイプだ。クムのお付きの女官は、40をゆうに超えた女であるのに“素敵な女性“と言われて、まんざらでもない顔をしている。また、コウはスラリとした長身でスタイルが良く、流行りの着物を着こなし雰囲気も柔らかいので、男女問わず人気があるのだ。それでいて、どこか飄々としているこの叔父をクムは非常に好んでいた。
「いや…。母上に挨拶に行ったのだが…」
そこで、クムは言い淀む。その様子に、コウは覗き込むようにクムを見る。
「カヤ様に何かあったのか?」
カヤの心配をしているのだろう。慌ててクムは言った。
「母上とは、何も無かったよ。部屋に入ってから、一悶着あっただけだ」
カヤに何も無かったということを聞き、安心しているようであったが、一悶着という言葉に、コウは首をかしげる。
「一悶着?カヤ様の他に、誰か居たのか?」
「それは…」
クムは「知らない女」と答えようとしたが、その事を言ったら最後、事の顛末を話さなくてはならなくなる。そうなると、クムが不本意ながら女の着替えを覗いたことが、コウにバレてしまう。それは、バツが悪い。
さらにコウは、女にだらしないところがある男だった。来るものは拒まずの精神で、会うたびに違う女を連れていることも少なくない。何となくそんなコウに、先程の女の話をするのは嫌だったのだ。
「それは…、無礼な猫が居ったのだ。ただ、それだけだ」
もうこの話はお仕舞いとでも言うように、クムは早口で話す。
その様子に、コウは、更に首をかしげ
「無礼な猫…?」
と、呟いた。
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