天の川銀河の牢獄 ティスタニア
四つの砲身から連続的に放った光の弾丸に敵の攻撃が
機体損耗率0%。
着弾率100%。
索敵結果はオールグリーン。
ブラックウィドーは、圧倒的攻撃能力を魅せつけて戦闘を終わらせ、コントロール権限をプレアに戻した。
『フォローラ』
「は、はいッ!」
プレアは呼ばれたと同時に背筋をピンと張り、返事をした。今にも泣きだしそうな顔色である。ところがブラックウィドーは、別段叱ることはせず、優しく語りかけるようにこう言った。
「敵将は堅実かつ狡猾です。先ほどのような奇襲がこれから先幾度となく続くのであれば、いくら一騎当千の私といえども対処に手惑います。私たちはふたりでひとりです。互いが迅速に対応しあっていくことを肝に銘じなさい」
プレアは申し訳なさそうに返事をして肩を落とした。
『ルチェア』
「ぴゃ、ぴゃいぃ!」
ルチェアは、まさか自分にくるとは思っていなかったらしく、守田がそのあまりの驚きように腹を抱えて笑い転げる。
『今この隊のリーダーはフォローラです。彼女の判断がたとえ間違っているとしても、その判断を最良へと導くのが貴女の役目です。フォローラの肩に乗っている頭足類の処遇については目的地に着いたときに改めて判断しましょう。いいですね?』
「ぴゃい……」
ルチェアの潮垂れる姿に更なる笑いが込み上げる。顔を真っ赤にしたルチェアとの攻防が再開された。
幸い、そこからの航路は至って平穏だった。バッパはプレアの肩ですやすやと寝息を立て、後部座席の二人も互いに重なり合って眠っている。紫雲に囲まれたトンネルの先に黒い穴がポッカリと空いているのが見えはじめた。
『さ、あと5分ほどよフォローラ』
「うん」
二人は静かに気を引き締めた。ついに出口をくぐり抜ける時がやってきたのだ。景色は宇宙空間の黒へと変わり、ワームホールが閉じられた。減速を開始したその時、宇宙戦闘機の風防左側に丸みを帯びた白い物体がデンとして映り込んでいるのが見えた。
「小惑星……?」
プレアは一瞬そう思ったが、その答えが誤りであることにすぐに気づいた。大小様々な鉄板を組み合わせたような目地が、物体の腹に走っているのが薄っすらと見えたからだ。恒星の照り返しに目が馴染んでくると、それがよりくっきりと見えた。監獄船がこのような姿であることを、誰もが予想だにしていなかった。
「これが……天の川銀河の牢獄、ティスタニア」
銀河中の重犯罪人が閉じ込められている監獄施設。直径は約10キロメートル。小惑星としか形容できない機械仕掛けの真っ白な宇宙船。これが監獄船ティスタニアの正体である。
『内部から見覚えのある電波をキャッチしたわ。どうやら終着駅はここで間違いなさそうね』
「ウィドー、あれ!」
プレアの指差す先に見えたのは監獄船の一部分が次々と開かれていく光景だった。さらにそうして出来た六角形の穴から無数の白い飛行物体が排出される様を目撃した。その数はあっという間に100機に達し、止む様子もなくいまだ増え続けている。ブラックウィドーは静かに迎撃に備えながらこう言った。
『あらあら、さっきの意趣返しにしては随分大人げないことするわね。まぁ、こうなることは予測してたけど、流石にあの数はちょっとキツイわね』
――監獄船ティスタニア 作戦指令室――
「閣下、どうやら足止めには失敗したようです、あの者たちが追ってきました」
鰐顔の軍人バロッツは、報告後、すみやかにプレアたちが乗る戦闘機の映像を巨大ディスプレイに映し出した。黒い甲冑に身を固めた男ストラフは、長い波状の黒髪をかき上げながら映像を一瞥してこう言った。
「ほう……私の手土産をすべてゴミ箱に捨てたか。流石はリエフの娘、と言いたいところだが、足掻いたところでここが墓場となることには変わらん。同志バロッツ、受刑者どもの戦艦配置はどうなっている」
「は。滞りなく例の物も配備完了です」
「よし。ではワームホールをフリートスに接続。速やかに出航させろ。逃亡せぬよう舵と脱出ポッドには鍵を掛けておけ。あと、保険を掛けておく……あの娘をここに連れてこい」
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