神速三連撃 ライトニング
「ほう、紋様力をそのように操れるのか。だが所詮、世間知らずの小娘。銀河の広さを思い知らせてくれる」
黒ずくめの男は、プレアがレイブレードを振りかぶる瞬間を冷静に見抜き、垂直に切り落とした。だが、すでに彼女はそこにいない。
「消えた!?」
そして次の瞬間、黒ずくめの男は強烈な気配を背後に感じとり、振り返りざま真横一閃の斬撃を辛うじて受け止める。
「クッ、小娘の分際で小癪な……ッ」
プレアはこのまま振り抜こうとジリジリと力を込めた。しかし黒ずくめの男は負けじと体勢をたて直し、力任せに剣を押し上げ、予備動作なしで彼女を振り払った。プレアはその力を利用してバク転で後方へと一旦下がり、重力をまるっきり無視した跳躍で水槽の壁面を蹴り、男の懐に飛び掛かる。黒ずくめの男はその一撃を防ぎきり、着地を決める間も与えんと強烈な斬撃の連打をプレアに浴びせた。プレアは慢心の二文字が消えた男の凶撃を受けながら後退を余儀なくされていた。いつの間にか水槽まで追いやられ、斧で垂直に叩きつけるような渾身の打撃を横一文字で受け止める形となった。
――こ、この男の剣技、達人の域を超えている。まったく歯が立たない。
真っ青に染められた左腕の布からぽたりと青の雫が床に滴り落ちた。男の剣圧に姿勢が崩れるが、なんとか片膝を突いて持ちこたえる。
――左腕がもう、限界。
「まずはその小癪な腕を切り落としてくれる。次は両脚。残りの
その言葉を耳にした瞬間、プレアの紋様が突如として輝き始め、螺旋模様が首を通り両腕に象られる。
「紋様をそのように操れるだと、バカな……ッ」
黒ずくめの男は初めて見る光景に目を疑わざるを得なかった。それもそのはず。紋様をこのようにして操れるのはプレアデス人で唯一プレアだけなのである。
プレアはそれを機に、黒ずくめの男の凶刃を押し返しはじめた。そして、紋様で力強く縁どられた双眸で男を
「恵子たちに1ミリでも触れたら、IMGFの裁可を待たずに貴方を
プレアは雄叫びと共に男を仰け反らせ、その隙を使って十分な間合いをとった。
――今こそ、あれを使う時だ。
そしてレイブレードを霞に構え、控えめにぽつりとこう言った。
「必殺、ライトニング」
その技名のごとく、プレアが目にも留まらぬ速さで男に向かって突き進んだ。黒ずくめの男は警戒しながら剣を脇に構え、目の一点に全神経を集中させて迎え撃つ体制を取った。プレアの一撃目にレイブレードを合わせるがやはり囮だった。黒ずくめの男は慌てず次の攻撃に備えて気配を辿る。
「多少速くはなったようだが、同じ芸を二度は喰わん」
プレアの二撃目はあと少しというところで黒ずくめの男に届かず、反され、袈裟切りをまともに喰う羽目となった。
ところが、
そのように見えたのは一瞬で、肩から腰にかけて切りつけられたプレアの体が、受信電波の悪い映像のようになって空中で四散した。
「馬鹿な!」
黒ずくめの男は手に残る斬った感覚に執着しつつ、プレアの気配を探るように左右を見て狼狽える。
「ここよ」
黒ずくめの男はその声と気配を全方位から知覚したことによりさらに混乱した。そして自分の愚かさにようやく気づいた。
「クッ、あの攻撃はこの技の布石――ッ」
プレアが頭上高くにいることに気づいたときにはすでに遅かった。黒ずくめの男が見上げると同時に、プレアは逆手に持ったレイブレードで落雷のごとく、男を突き刺すように斬りつける。
「おおおおおおおおおおおおおおおおッ」
プレアが編みだした必殺技の正式名称は、神速三連撃ライトニング。一撃目の攻撃後は瞬間移動で姿を消し、二撃目は完璧な残像で相手を混乱に陥れ三撃目で敵を討つ。
プレアはレイブレードを地面に突き刺したまま面を上げた。手加減したつもりはなかった。手負わせることは出来たが、寸前のところで躱されたのだ。
黒ずくめの男はたたらを踏み、顔を押えながら後退した。仮面の半分が破損しており、中から顔を覗かせている。波打つような黒い長髪の下は傷だらけで、額には、プレアと同じような模様が象られていた。
「そ、その紋様……」
プレアは驚きを隠せなかった。表情は血の気が失せ、紋様はいつの間にか消えていた。
「フ、気づいたかIMGFの小娘。我を手こずらせた褒美として教えてやろう。我が名はストラフ。銀河警察が血眼になって探しても見つけられなかったグレイ旅団頭首であり、貴様と同じ故郷をもつ者だ」
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