その答えは武によって示される。さあ、こい

「ほぅ、それを扱う者は限られている」


 黒ずくめの男はそう言いながらプレアとの間合いを外すため、地球人離れした跳躍で後方へと下がった。プレアはそれを許さないとばかりに男が飛んだ方角に地を蹴った。


 ――先手必勝。


 プレアは、鋭く縦に回転しながら初手を敵の電子拳銃に合わせた。傍からみると決まったように見えた。無論プレアもそう確信していた。


 だが、違っていた。


 二人の間に突如として稲妻の如きが生じ、電流が互いを拒絶しあうような凄まじい音と共に、プレアはあっけなく弾き返されたのだ。難なく着地を決めた男の右手には、あおぐろい燐光を帯びたレイブレードが握られていた。


「ククク、打ってくると分かっていれば避けるのは容易い」


 黒ずくめの男が後方へ跳躍したのは、抜刀するための時間稼ぎであった。プレアは空中で体勢を整えながら器用に着地し、あらためて中段に剣を構えなおす。


 ――あのレイブレード。


 そう、プレアは先ほどの対空戦で男が所持している柄のデザインが銀河警察のものと一致することに気づいたのだ。尚、刀身の部分にあたるの色の違いは、個人の持つ精神力の強さなどによって変化させることができる。


「なぜそれを……貴方はいったい何者!」


「その答えは武によって示される。さあ、こい」


 プレアは身を屈めて腰だめに剣を構え、気迫の声を上げながら黒ずくめの男に向かって突進した。だが男はその斬撃を片手で迎え撃ち、あっさりと跳ね返す。しかしプレアの猛攻はそれでは終わらない。隙と思わしき箇所に狙いを定めて打ちつけ、男がそれに反応して弾き返すといった応酬が展開された。


 その攻防を目の当たりにした須賀理たちは、まるで映画でも見るように固唾を飲みながら眺めていた。電流が弾かれあう独特の激しい音に体がビクリと反応したり、無数の羽虫が飛び交うような風切り音を聞きながら、目まぐるしく移動する光の軌跡を必死になって追いかけていた。今まで見たこともないプレアの勇ましい姿に圧倒されている。


 右左右左、左左右左、上上左右下……


 無規則で出鱈目にも思えるプレアの猛攻撃。ところが黒ずくめの男は遊んでいるようにも見える躱し方で、時折プレアの隙を見つけてはそこを突いた。プレアの斬撃20回に対して1回程度の返し。プレアはその一撃を避けるのにかなり手間取っていた。これが単なる演武であれば、万雷の拍手喝采が巻き起こっていたに違いない。


 終わりのみえない攻防が続くなか、プレアの攻撃にが加わりはじめた。黒ずくめの男はその変化と彼女の額に象りはじめた紋様を見てこう言った。


「そうか貴様プレアデスの者か。つまり銀河警察が我を嗅ぎつけたということか、なるほど」


 プレアはその言葉にピクリと反応するが、決着を第一に考え更に攻撃の手を加速した。


「余興は終わりだ。本気で行かせてもらう」 


 黒ずくめの男はそう言うと、両手で柄を握りプレアの斬撃をしっかりと受け止めながらそのまま半時計回りに押え込み、力任せの逆袈裟で彼女を斬りつけた。後方へと飛ばされたプレアは、無残にその身を床に打ちつける。しかしすぐさま起き上がって片膝をつき、光刃の餌食となった胸の部分を押えながら肩で息を整える。制服は切り裂かれていたが、肝心の体は赤い痣が残っただけであった。防護フィールドを展開していたお陰である。遠くに飛ばされたレイブレードの柄を念動力を使って手元に戻し、再び刀身を顕出させる。


 黒ずくめの男は、黝い切っ先をプレアに向けてこう言った。


「予定変更だ。貴様を生け捕りにしてとの交渉に使わせてもらう」


「な、なぜお父様のことを!」


 黒ずくめの男はプレアの反応に瞠目し、やがて不気味にうねり上げるように笑ってこう言った。


「そうか貴様リエフの娘か。ククク、望外だ。我の手の内にが勝手に入り込むとは。遂に運が我に味方したのだ、フハハ」


 ――しまった……ッ。


 黒ずくめの男は、もったいぶるように剣を上段に構え直し、プレアにこう告げた。


「さあ次で終幕だ。案ずるな、父との感動の再会まで首と胴だけは残しておいてやる」


 プレアは紋章の力をさらに引き出すことを決めた。そうしないとこの男に勝てないからだ。額の螺旋模様が複雑さを増して顔全体へと広がりはじめる。エレメントが増幅し、レイブレードの輝きが一層増した。レイブレードを片手に持ち替えて刀身を隠すように後ろへ突きだし、地面に近い距離まで身を屈める。プレアは須賀理の視線が自分の顔に集中していることに気づいていた。そのことだけが気がかりだった。


「恵子、見ないで!」


 その言葉を合図に地面を蹴り、左右の瞬間移動で攪乱しながら黒ずくめの男の間合いを詰めていく。

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