いてくれなきゃ困る最強の相棒なのだよ、マイブラザー

 実は須賀理には五つ年の離れた兄がいる。今年、自衛軍に入隊したての須賀理智行ともゆき18才階級二等陸士は現在、時坂駐屯地新隊員教育隊にて前期課程履修中の妹思いの男児である。


 須賀理はその兄貴の素性をざっくりと彼らに説明した。兄を伝に侵入するつもりなのである。


「あとはまぁ、侵入しちゃえばなんとかなるっしょ。ぶっちゃけ行ってみないと分かんない事だらけだもん! やはは」


 須賀理は自慢気に拳を握りしめ、己の考えついた計画の良さに酔いしれている。


「へっ、近所のスーパーに買い出しにでも行くつもりか? 昨日はたまたま上手くいっただけって思わねぇのかよ」


「いや、ボクはそうは思はない。この結果は言うならば必然。これまでのボクの人生のツケ……! 幸運の女神フォルトゥーナがそんな健気なボクを見て味方に付いてくれたのだ。だからチャンスは最大限に活かす。それがボクの主義」


「チッ、無謀にも程がある。正直言って俺は反対だ。リスク負ってまでやる価値がどうも見当たらねぇ。……とはいえ、すでにお前の沈みかけの泥船に乗っかってる身だ。お前の愚行を止めるために反対もしねーといけねえし、そればっかでもダメってことは分かってる。つまりなにが言いてえのかっていうと、批判的に物事を検証する立場の人間がこれ以上ここにいちゃ足手まといになンじゃねえかって思うわけよ」


 須賀理が、これまでと違う守田の反応に顔を綻ばせこう言った。


「そんなこと全然無問題ナッシング。むしろ君がいてくれるお陰でボクは部長として常に冷静でいられるのだ。反対されることでより思いが強くなって、あやふやな考えだとダメだなーって思うし、石橋を叩いて渡んなきゃって思う切っ掛けにもなってる。まだ入ったばかりのペーペー捜査官だけど、すでに君はこの部にとって重要的役割を果たしてる。つまりボクとしましては、いてくれなきゃ困る最強の相棒なのだよ、マイブラザー」


 守田は照れ隠しに横を向きこう言った。


「チッ、約束は忘れンじゃねぇぞ瓶底。もし宇宙人がいなかったらその場でスッポンポンになってもらうからな」


「もちろん余すところなく全てお見せする、踊り付きで。てか次瓶底って言ったらガチでしばき倒す」


 5時17分


「もしもしお兄ちゃん? 今訓練中?」


『訓練中に電話出れるわけないだろ。今飯食い終わったところだ。で、急になんだ?』


「今から駐屯地に行ってもいい? 友達と」


『俺のことが恋しくなったとかじゃないよな、お前、またなんか企んでるだろ』


「詳しい話は現地にて。盗聴されると厄介だしね」


『ふ~ん、でも教育中だから班長が許してくれるかどうか……』


「そこをでっち上げるのがお兄ちゃんの仕事。家庭内の揉め事だとか適当に作れば問題解決」


『面倒事はごめんだぞ。着いたら電話くれ。気をつけて来いよ』

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