地球外知的生命体の存在を信じる理由

 4月9日午前10時45分

 市立時坂中学校 Xファイル部部室


 須賀理は部室にたどり着くと、守田を先に押し込めて後ろ手で鍵を閉め、部屋の奥にあるパイプ椅子にドカリと足を組んで座った。両脇の背の高い整理棚に道具や書類などが乱雑に収納された、教職員たちが使わなくなった小部屋を部室として使用しているのである。


「ここが我々の拠点Xファイル部の部室だ。若干散らかってるけど、好きな所にかけたまえ」


 守田は座したまま、棚に貼られてある安っぽい円盤型の飛行物体の写真群を横目でチラリと見て、より鋭い眼差しを須賀理に向けながらドスを利かせた声でこう言った。


「ナメた真似しやがって、こんな事してタダで済むと思ってンのかテメェ」


「あー、その件に関してはごめりんこってことで。だってこうでもしない限り君ついて来てくれなかったっぽいもん。それとも優しくしたらついて来たぽ?」


「ついてくワケねぇだろうが! しかもこんな薄っ暗ぇ所でふたりっきりでよ、何かあっても言い訳できねぇぞコラ」


「え? ひょっとして身ぐるみ剥がしてボクをメチャクチャにしたいって願望あり? 男子どもに変人扱いされてるのに気は確か? ……あ、今ボクの素っ裸想像したでしょ」


「な……っ! ンなわけねーだろ」


「うっそ冗談。まー折角来たんだからちょっとだけ質問に答えてよ。すぐに帰すからさ、ね?」


 すっかり調子を崩された守田は須賀理の言い分を渋々認めることにした。質問の内容は須賀理の言動から察するに想像に難くないもので、宇宙人はいると思うか、というシンプルな問いだった。守田は間髪入れずにこう断言した。


「科学的根拠がねぇモノは一切信じねぇ。それが俺の美学だ。残念だったな」


「え、美学とか言っちゃってキモ。科学的見知から言ってそれカッコつけきれてないから、やはは」


「クッ、UFOとかETの話したきゃ他当たれって言いてーんだよこのクソ眼鏡!」


「まぁまぁもちついて、本題はここから。アメリカの国防総省が認める発言をしても尚、いないって言い切れるの?」


「チッ、誰が何と言おうが知ったこっちゃねンだよ。つーかお前はどうなんだよ? まさか、あの茶色のギョロ目野郎に会ったとでも抜かすんじゃねぇだろうな?」


「うん。茶色のギョロ目野郎じゃなかったけど、一度だけど会ったことあるよ」


 須賀理は子供の頃、実際に――、


「はぁ?」


 宇宙人に会ったことがある。


「ほんとだよ。……まー言ってちっちゃい頃の記憶だから信頼度低いけどね。夢の可能性だってあるし。マジレスすると、存在を否定する確固たる理由もまた存在しない、てのが理由で信じてるのだ」


「……フン、あっそ。じゃ話は済んだな、帰らせてもらうぞ」


「あー待って、じゃあこうしよ。もし、宇宙人がほんとにいなかったら、君がさっき妄想したボクの素っ裸をお見せする。ガチで脱ぐし、約束はちゃんと守るよ。ちなみにボクはDカップ。これでどう?」


「はいはい何言っても無駄っつッてんだろーが、部活なんかぜってー……ええっ、マジか!」


 守田は突拍子もない言葉に動揺し、そして疑うこともなくその言葉を信じた。須賀理が艶っぽい眼差しでこう畳み掛ける。


「卒業までの二年間でいない事を証明したらガチで脱ぐ。それに世の中科学的根拠があるモノばかりだから君の方が絶対に有利。さーどうする? ついでにびっくりするほどユートピアって踊って、あ、げ、る♡」


 須賀理はわざとらしく制服のブレザーのボタンを外し胸を強調してみせた。守田がこのとき須賀理の裸踊りを想像しなかったら、答えはまた違ったものになったのかもしれない。


「ふ、フン……ま、どーせすることねぇし……どうしてもって言うなら、空いてる時間に付き合ってやってもいいぜ、ET探し」


「禁欲の果てにたどり着く境地など高が知れたものとはよく言ったものだね。よし、とにかく交渉成立だねッ! ねぇ、ちなみにボクの裸ってそんなに唆られる?」


「違っ、俺はその……お、女の頼みは受けなきゃ男が廃るって言うか……どうせやる事なかったし、あくまで暇つぶしの一環って言うか……」


「……ふーん。盛りのついた童貞男子はやっぱチョロいってことっスな……あ、ごめん。つい心の声が漏れちゃった、忘れて。じゃここにサインして」


 守田は須賀理から入部届を受け取り、名前を書きながら最後にこんな質問をした。


「約束忘れんなよな。あとなんで俺なんだ? ET好きなんて他にゴロゴロいるだろ」


 須賀理はニタリと笑ってこう言った。


「もち君の名前っしょ。ボクらの絆は運命的に結ばれているのだよモルダー捜査官」


「その名前で呼ぶのだけはやめてくれ」


 こうして彼らの真実を探究するチームが誕生したのである。

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