第一章 真実を求める者たち?

Xファイル部部長 須賀理恵子

 2022年4月9日午後10時30分

 市立時坂中学校二年五組 新学期初日ホームルーム後の教室


 教卓の真正面目の列で一番後ろの席で腕を組み、鋭い目つきで鎮座している男がいた。彼の名は守田もるだ俊雄としお。本日この学校にやってきた転校生である。


 現在守田を除き、早くも新しいクラスに溶け込んだ生徒たちが、手探りの会話を交えながら下校準備を進めているのだが、彼に話しかける生徒が誰一人としていないのには理由がある。


 まず第一に、目つきが悪い。

 彼にとっては普通の状態なのだが、リーゼント気味にまとめた髪のせいか、恐さが倍増して誰も近づこうとしない。


 第二に、ナイフの様な刺々しいオーラを発している。

 無論これも普通の状態で、生まれてこのかた喧嘩負けなしの風格をギンギンに漂わせているのである。


 クラスの三分の二が教室から出払うのを待ったのは単なる偶然に過ぎなかった。扉の向こうから女がヒョコッと顔を出し、キョロキョロと誰かを探しているのが守田の目に入る。やがてその女はお目当ての人物を発見したのか、堂々たる態度で教室の中へ乗り込んできた。その人物とはもちろん守田のことで、女は守田の前で止まると勢いよく両手を机に叩きつけ、ギラギラした目で笑み浮かべながら守田を吟味した。


「な、なんだよ……なんか文句でもあンのかよ?」


 守田にとってこんなパターンは初めてのことであった。謎行動に戸惑う守田に、女が無遠慮に話しかける。


「ふーん、君がウワサの守田俊雄くんかぁ……あ、ちなみにボクは二組の須賀理すがり恵子けいこ。並外れたプロファイリング能力を持つ優秀なFBI捜査官……に、成る予定の若輩捜査官なのだが、クラスのみんなは期待を込めてボクのことをこう呼んでいる、超常現象の天才スペシャリスト、と。よろしくニキ」


「いや、そんな情報いらねぇっつーの」


 黒ぶちの大きな瓶底眼鏡がトレードマークの、癖毛のある茶髪をボブカットにした元気溌剌とした女である。自分の好みではないが、一応カワイイ部類に入る、と守田はこのときそう思う。


「で、自称天才のスペシャリスト様が一体俺になんの用だ?」


「目つきの悪いモルダーって名前の転校生ヤンキーが五組に入ったってクラスで話題になっててさ、で、こうして誘いに来てやったのだ。Xファイル部の部長であるこのボクと真実を追い求めるためにね。ちなみボクのことはスカリーって呼んでくれて構わないよ」


 須賀理は周りの奇異の目をまったく気にも留めずそう捲し立て、希望と自信に満ち溢れた目を守田に向けて手を差し伸べた。


「はあ? なんで俺が、ンなガキのゴッコ遊びに付き合わなきゃならねンだよ。つーか初対面のクセに馴れ馴れしいぞテメー」


 須賀理は守田の拒絶を一切聞き入れず、深いため息をつきながら彼のおでこに手を当てこう言った。


「モルダーあなただいぶ疲れてるようね。きっと、転校のストレスが原因ね。一度ちゃんとした専門家に診てもらったほうがいいと思うわ」


 守田は、どこかで聞いたことのあるセリフに嫌悪しながら、おでこから手をむしり取る。


「疲れさせてる原因が誰なのか教えてやってもいンだぜ?」


 そこで須賀理はこの時を見逃すまいと、掴まれた手を曲げて守田の手首をガッチリと掴み返し、反対の手で瓶底眼鏡をクイっと持ち上げながら、企みの笑み浮かべこう述べる。


「挑発するにせよ言葉を選べ。仮初にも、このボクが怖気づくなどとッ! やはは、引っ掛かってくれてどうもありがとう。では只今よりアブダクションを開始しまーす」


「はあ!? ンなこと勝手に決めんな……って、なんて怪力だ、コラ放しやがれ!」


 須賀理は単に力が強い訳ではない、守田の手に力が入らないような掴み方をしているのだ。


「嫌も応もない、生木を裂くが如く無理やりだ! てやっ、あれ? 簡単に転んじゃって草。よし、とにかく今のうちだ。みんなーちょっとそこどいてー!」


 須賀理はあっさりと仰向けに転んだ守田を引きずり廊下へとまろび出た。後ろ手に大男を引きずりながら走る構図。あまり見ない光景に廊下に出来た人波が自然に割れ、須賀理は満面の笑みを浮かべながら部室へ直行した。

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