うちのクラスの金髪美女はミルキーウェイの指折りSPY

ユメしばい

序章 今回、君に与えられた任務は

天の川銀河の指折りSPY

 フリートス星の首都イディアから程遠き離れた雨の降り止まぬ街カサドルギア。彼女は任務確認のため、この街の倉庫街を訪れていた。立て掛けられた電話機に硬貨を入れ受話器を取り、長く濡れそぼった黄金色の髪をかき分けながら、電話機から現れた虹彩認証機に目を当てる。樹枝状の電光が夜空を切り裂き、遅れて遠雷の音が響き渡る。


「網膜スキャンを開始します。……エージェント確認」


 本人認証を済ませた彼女の青い瞳の中に飛び込んできたのは、渦巻銀河があしらわれた銀河警察の部隊ロゴ。その中央には銀河文字でこう刻まれている。


 IMGF。


 彼女が所属している不可能作戦銀河部隊impossible mission galaxy forceの略称。すなわち彼女は、銀河警察の中でも特殊作戦だけを請け負う、特別捜査官なのである。


 画面は切り替わることなく男性の声が耳元に届けられる。


「こんばんわプレアくん。早速だが次の任務の詳細を説明する。今から約十五年前に我々が壊滅させたグレイ旅団の残党が、銀河警察監視下にある第一級不干渉惑星で現星人を使って人体実験を行なっているとの情報をタレ込みによって入手した」


 コードネームでそう呼ばれた彼女の脳裏に描かれたのは、この星から443光年離れた、太陽系第三惑星地球。彼女の第二の故郷と言っても過言ではない、この惑星に似た星の名前だ。


「首謀者は依然として不明だが、我々の見解では前回と同様に、銀河の安寧を揺るがす事態に発展する可能性が極めて高いと考えられている。よって君には、これから現地に赴き、潜入捜査を行なってもらう。場所は、当惑星の日本という国の時坂市」


 百雷の如き轟音が鳴り響き、いかづちの根が地上に向けて伸ばされる。白肌を激しく叩きつける雨脚が意識の内から掻き消えるほどの内容に、男の言葉を聞き入る。


「まずはその地域の学舎にロシア人留学生として現地に溶け込むことから始めてもらいたい。無論、諸々の手続きは全て済ませてある」


 降って湧いてきた超好転開に彼女は冷静ではいられなかった。外面では平静を装ってはいるが、内面は完全に上の空である。


 ――ようやく、奇跡を手繰り寄せることが出来た。


「今回君に与えられた任務は、彼らの拠点を発見次第潜入し、首謀者の特定並びに行動を監視すること。例によって君が任務中に捕らえられ、或いは殺されても当局は一切関知しない。このメッセージは5秒後に自動的に消滅する。それでは成功を祈る」


 受話器を置くと同時に装置の隙間から白煙が立ち上る。放心状態の脳に喝を入れ、その足で五つ隣の倉庫に入り、格納してあった小型宇宙船にすぐさま機上した。電子パネルを操作して目的地を設定し、機体前方にワームホールを展開させる。


『自動航行モードによる発進まで残り10秒、9、8……』


 彼女は十年前、家族旅行で地球に訪れた際にある少女と出会っている。再会を誓いながら別れた異星人の友。そんな切実な想いとは裏腹に、巡り会うことすら叶わぬとも思っていた人間の唯一の友である。彼女が奇跡と称する理由はそこにある。機体が吸い込まれるように、紫雲壁に取り囲まれた穴の中へと突入する。


「恵子、今行くから」


 彼女の名は、リヒィタ・チュリエ・アルキュリオー・フォローラ・フェアブレツヴォスチドリヒア。


 プレアデス星団内アルキュオーネ系第五惑星フリートスの第五二一代天皇の第一皇女であり、天の川銀河ミルキーウェイの、指折りSPYである。

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