事故物件
定食亭定吉
1
ここ本厚木でも埋もれるレベルのインディーズアイドル鮎美。高校中退から22才になる今でも活動中。胸はEカップだが、他に特徴なく、150センチぐらいの老けた高校生という感じである。時々、奇異な視線を浴びるが、それでもパフォーマンスを続ける。
その姿を見ていた売れない弾き語りトンカツ。胸フェチである彼の股間は反応していた。
「何、見ているの?」
怒声をあげる唯子。
「見られるのが目的だろう?」
「あっ、そうでした」
納得してしまう鮎美。
トンカツは帰り支度を始めた。
「お兄さん、帰るの?」
甘えた感じの鮎美。
「そうだよ」
嫌そうに返答するトンカツ。
「あのさ、今度の鮎祭り、一緒に出演しない?」
毎年夏、厚木市内で行われる祭りである。
「えっ?」
「だから、イベント出演という事。ショッカーでやられるだけ。何かもらえるかもだし」
「へー。それなら🆗‼」
一人暮らしで貧乏なため、目先の利益に敏感である。
「ただ、ショッカー役を募集するらしいよ」
「えっ?」
ショッカーは雑魚の悪役である。
「いいじゃないの。どうせ売れてないし、いいアピールチャンスよ」
「うん」
妙に納得するトンカツ。
「時間あるでしょう?」
「あるよ」
「じゃあ、お金も勿体ないし、私のアパートへ行こう」
「えっ?」
女子の部屋に行くのは初めてのトンカツ。
「この近くだから」
「そうなの?ではお邪魔するよ」
二、三分歩いて鮎美のアパートへ到着。二階建ての特徴ない外観。一階の101が彼女の部屋だ。
「お邪魔します」
二人は部屋へ入室。整然としているワンルーム。
「ソファーにいて」
着席させられるトンカツ。ソファー前には大きなテーブルがある。
「コーヒー飲める?」
トリップ式コーヒーをトンカツに差し出す鮎美。
「ありがとう!」
ミルクとシュガーを入れて飲むトンカツ。
「ところで鮎祭りは知っていた?」
「知っているよ。厚木に五、六年住んでいるし」
「へー。厚木のどこに住んでいるの?」
「本厚木駅南口から歩いて五分ぐらいの所だよ」
「ふーん」
「家賃はいくらなの?」
「二万円。事故物件だから、鮎祭りに出演した人が帰宅して自殺したらしいよ」
「早く言えよ❗」
「御払いしているし、供養で鮎も食べているし、知らない人だけど私の分身だと思っているの」
自殺した前住人は、同じくアイドルを目指していた。彼女は二十五才で芽が出ず、将来を悲観し自殺した。
「そんなので供養になるの?」
「何もやらないよりはね」
「何だかな。後付けかも知れないがな」
「それより練習するからね。取り敢えず、私のビンタを受けてね」
気持ち悪い笑顔で、気持ち良さそうに鮎美のビンタを受けるトンカツ。
二人しかいないのに誰か見守っている感じがする。自殺した前住人も笑っているのかもしれない。
一週間後に開催された鮎祭りの企画は、二人の練習の成果があり、ユーモア賞を受賞。賞として鮎一年分をゲット。
彼女の供養も込めて打ち上げの二人。一夏の思い出にそそられ、抱き合う二人。
事故物件 定食亭定吉 @TeisyokuteiSadakichi
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