僕が君と出会った空
風雅
ノーマルエンド
「あれ?ここ、どこだ?」
さっきまで通学路を歩いていたはずだった。
「記憶喪失…か?」
自分でもあまり信じていない答えを口に出してみた。
確認してみた。
名前は新井和人、広島県尾道市に住む高校二年生だ。
よかった、しっかりと覚えていた。
でも、ここはやはり通学路ではない。
青空にはいくつもの白い雲が流れる。それは変わらない。
だが、足元を見ておもわず「うっ」と声が出た。
足元はいつものアスファルトではない。
正確には地面がない。
しかし自分は下に落ちない。
まるで水の上に立っているかのような錯覚に陥る。
――本当にここはどこなんだ?
周りには背の低い葉のついていない木と、二、三人寝れるくらいの公園にあるような平たいベンチがある。
と言うか、浮かんでいる。
そこには人影があった。
おもむろに腰から先をひねり人影が振り返る。雲が逆光を遮り人影があらわになる。
肩までかかる茶髪に茶色い瞳、整った小顔。年齢は高校生くらいといったところか。
制服を着ている。
誰が見ても十中八九口をそろえてかわいいというだろう。
そんな考察をしていると不意に少女から言葉が放たれた。
「――こんにちは。」
☆----------------------
少し吃驚した。
ここには自分以外来たことなんてなかったから。
目の前にいる男子は黒い髪と黒い目のどこにでもいそうな普通の男の子という容姿をしている。
歳は高校生くらいだろうか。
とりあえず挨拶をしてみた。
「こんにちは。」
男の子は少しあわてた様子で、
「あ、こんにちは」
と返してきた。
「隣、座ってもいい?」
私が承諾すると男の子は一人分くらいの間隔を開けて座った。
また少し困惑した様子で、
「ここはどこなんだ?」
と、私に聞いてきた。
☆-----------------------
勢いで聞いてしまったが、冷静に考えれば今のは愚問だったかもしれない。
なぜなら、この少女もここに来たばかりかもしれないのだ。
自分がそうだったのだからその可能性は否定できない。
少女は少し考えるそぶりを見せ、
「空の狭間じゃないかと思ってる」
といった。
ふと、ノイズ交じりの映像が頭の中で再生された。
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「空の狭間じゃないか?」
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――なんだ今の?
ノイズ交じりの映像はここを映していた。
僕が話しかけえている人も知らない人だった。
それだけではない。
今の声は自分のものだった。
いつも自分が発しているのだ。間違えるはずがない。
でも確実に『あれ』は、ここの映像だった。
ここに来たのは今日で初めてだというのに。
だがその思考は、少女の「どうしたの?」という声によって中断された。
「何でもないよ」
と一言返すと、彼女は、「ふ~ん」と何ともあいまいに返してきた。
その後僕たちは何か話すわけでも無く、ただただ、ベンチに座りぼーっと空を眺めていた。
どのくらい経っただろうか。いつの間にか空はオレンジ色に染まっていた
「そろそろ時間かな。」
少女はそういうとおもむろに立ち上がった。
「時間って?」
少女は振り向き答えた。
「家に帰る時間」
「…というと帰り方があるのか?」
少し焦り気味に聞くと、
「勝手に元の場所に戻るの。」
僕は安心して「ふ~ん」とあいまいな言葉でささやかな仕返しをしてみたが、少女は気にも留めていないようだ。
僕も少女にならって立ち上がってみた。
たちまち、目の前にいた少女の姿が掻き消えて、地面も周りの景色ももとに戻っていた。
おかしなことに、あれだけしゃべっていたのに時間は全く経っていなかった。
困惑している僕に晩ご飯のおいしそうな匂いが鼻腔をくすぐった。
とりあえず今は家に帰ることにして今日のことは後で考えることにした。
☆-----------------------
次の日、僕はまた同じ場所にいた。
少女は木の上に登っている。昨日のように制服姿ではない。
少女は僕に気づくと、
「登ってみたら?きれいだよ。」
と言ってきたので、お言葉に甘えて登ってみることにした。
「なんでいつもここにいるんだ?」
と、少女に聞いてみた。
「いつも考え事をしてると、突然飛ばされてくるんだよね。」
少女はそのままの姿勢で言った
どうやら少女も僕と同じように突然飛ばされてくるようだ。
「そうなのか」
そうして昨日と同じようにぼーっと空を眺めて過ごすのかと思ったが、
ふと、名前を聞いてなかったこと思い出す。
「なあ、お前の名前教えてくんない?」
「大崎 茜」
彼女はそう答えた。
「きみは?」
「僕は新井 和人。和人でいいよ」
そういうと茜は、
「和人、、。いい名前だね」
と笑いながら返してきた。
またノイズ交じりの映像がノイズ交じりの映像が頭の中で再生される。
「和人か。いい名前だな」
「ありがとう。お前もな」
――また、またこの映像が流れた。
今度はふたりで名前についてのやり取りをしているようだった。
この前と同じで記憶にないが。
自分の頭の中に何かが流れ込んでいる感覚。
だが別にいやではなかった。
茜を見るとまだ空を眺めていた。
今はさっぱり解らないが、とりあえず考えるのはやめようと思った。
この空を見ているとそんな気分になった。
いつの間にか空がまたオレンジ色に染まっていた。
また時間が来たようだ
茜は、「じゃあね」
と言うと、木から飛び降りた。
茜の足が地面についた瞬間、周りの風景は消えて、いつもの街の風景に戻る。
――やはり時間は進んでいなかった
これが空の狭間での二日目の出来事だった。
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その後何度も空の狭間で茜に合うことによって、茜のことがだんだんわかって来た。
広島市内の高校に通う、同い年の2年生。大人びていて心が強い子だ。
今では、学校の出来事など、くだらない話で盛り上がれるほど仲が良くなった。
今日は二人仲良くベンチに寝転がっている。
僕はなんとなく、
「今度一緒に遊ばない?」
と聞いてみた。
だが茜は顔に暗い影を落とし、
「ごめん、遠慮しとく」
「忙しい?」
「ううん、そういうわけじゃない」
「何か理由が?」
「…あんまり人には言いたくない」
脳裏にまたあの映像が再生される。
――「あまり人には言いたくないんだ」
今度は僕がいつもの人に話しかけている場面だ。
やはり知らない。でも何故か懐かしい感覚。
その後僕達は、長い沈黙に包まれた。
空はもう黄色を通り越して、オレンジ色になり始めている。
すると突然、茜は、「よし」と言うと僕に、
「やっぱりいいよ」
と言ってきた。
僕は「え?」と聞き返してしまった。
「遊んでもいいよって言ってるの」
茜は少し震えながら、でもしっかりとした声でそう言った。
「私の心の問題だから。今のままじゃだめだと思ったの」
詳しい理由はわからなかったが、悶絶した。心が強いな、そう思った。
「じゃあ、今度の日曜日の十時に広島駅前の噴水で集合な」
そう言うと彼女は笑いながら、
「わかった」
と言った。
じゃあねといって立ち上がった。
茜の別れの言葉と、元の世界に戻ったのは同時だった。
僕は遠足を控えた小学生のような足取りで、家へと急ぐのだった。
☆------------------
日曜日。
僕は集合時間の三十分も前に目的地についてしまった。
あの日、家に帰ってから冷静に考え、そして悶絶した。
いや、だってこれ冷静に考えたら、女の子デートに誘ってるわけじゃないですか。
しかもごく普通に。
仲良くなったからっていきなりデートに誘うとか。
そりゃあ、身もだえしないわけないじゃないですか!!
と、自分のキャラが崩壊するくらいひとしきりわめいて。
これはデートじゃないと自分に言い聞かせ。
恥ずかしい感情が抜けきったあたりで今度は緊張してきた。
いやだって、ほんとに来るかもわからない人を待って待ちぼうけ喰らったらたいへんな人になるじゃないですか
そう考えると不安と言っていいような気がしてきたが。
と言うわけで今僕は説明し難い事情により絶賛1人百面相中だ。
そんなこんなで30分たったころ
茜が現れた。
「ゴメン、待った?」
「うん30分くらい」
「そう言う時はいや、『僕も今きたところ』って答えるのが普通だよ?」
「う、うん」
僕は少し動揺していた。
私服の茜はとても綺麗だった。
まるで宝石箱だ。
僕が見とれていると
「ジロジロ見られると恥ずかしいじゃない」
と茜が恥ずかしそうに言った。
「っごめん、あまりに可愛いからつい見とれちゃって」
そう言ったら茜はますます顔を真っ赤にした。
「でもよかった似合ってなかったらどうしようって思ってたんだよね。」
そこから少しの静寂。
僕はその静寂を破るように
「じゃあどこに行く?」
と聞いて見た。
「じゃあ映画見に行こう!実は前々から見たい映画があるんだー!」
となるとあそこか。
僕らは広島の中では割とでかい某モールに行くことにした。
☆-----------
モールについた僕たちは少し早めの昼食をとることにした。
僕がラーメン、茜がサンドウィッチだった。
僕がラーメンができるのを待っていると
サンドウィッチを食べていた茜から疑問が飛んだ。
「和人はどうして私を誘ったの?」
「1人で寂しそうだったからかな」
茜は少し不思議そうに、
「なんで私がひとりぼっちだっておもったの?」
「それは、茜が空の間にいるとき、どこか悲しそうだったからかな」
「、、、。実はね、私、、、、」
ピピピピ、ピピピピ、ピピピピ
茜の声は僕の料理の出来上がりの合図にかき消された。
「あ、ちょっと待ってて」
僕がラーメンを取って帰ってくると、茜は俯いていた。
「で、さっきは何を言おうとしてたの?」
茜びっくりした様子で
「いや、やっぱなんでもないよ」
と言った。
僕は少し胸に何か引っかかるような気がした。
っと、とにかく今は急いで食べないと。
いつの間にか茜は食べ終わっていた。
☆-------------------
その後、僕たちは何事もなく映画を見行った。
その帰り道
「ありがとね」
と茜が言ってきた。
「なにが?」
「今日誘ってくれたことだよ」
茜は歩きながらそう言ってきた。
茜はそのまま続けた
「和人が言ってたように私友達がいなかったんだ。正確には作れなかった。」
茜はそのまま歩いて行く
おそらく友達を作れない理由は、あの『人に言いたくない何か』が関係しているんだろう。
「だから和人に誘われた時も抵抗があったけどいつまでも過去に囚われて前に進めないのは嫌だから。だから」
茜は前に走って振り向き一番の笑顔で笑って
「和人今日は誘ってくれてありがとうね」
といった夕日をバックにした茜は、とても神秘的だった。
僕は誤魔化すように
「そうだ、LINE交換しよう」
と提案した。
茜はうれしそうに、
「うん」と答えた。
☆-------------
それから僕たちはLINEで毎日やり取りするようになった。
茜はあのあと友達を作れたようだ。
茜の友達ともLINEを交換した。
みんなで遊んでみたがみんなといい感じに打ち解けることが出来た。
茜が空の狭間にくることも少なくなって僕が行ってもいないことが多くなった。
そこから僕も空の狭間には行かないようになった。
☆---------------
学校のチャイムが 4限目の授業の終わりを告げる。
みんなが今まできれいに座っていたのが一斉にバラバラと散っていく。
弁当箱を持って、でていく生徒。
購買部の方向に走っていく生徒。
カロリーメ○トや十秒でエネルギーチャージできる某ゼリーで手早く済ませ、机で寝る人など様々だ。
私がそのまま机で弁当を広げようとしていたところに数人の生徒が近寄ってきた。
皆、最近できた友達だ。
みんなに話しかけてみたら、意外と簡単に打ち解けて友だちになることができた。
みんな優しく良い人達だ。
そのままの流れでみんなで食べる。
最初は慣れなかったが、今ではそこまで気にしていない。
少し不思議な感じだが。
友達の一人が口を開いた。
「茜って、話す前は、いつも静かで何考えてるかわかんなくて、話しかけづらかったけれど、話してみたら意外とフレンドリーでびっくりしたんだよねー」
「確かにこんなに親しみやすかったとは思わなかったな」
みんなが会話をするとき、いつも自分はみんなと距離をおいてしまう。
昔のことがあるからだ。
そうこうしているうちに、どんどん話は進んでいく。
突然、
「そうだ茜、今度川に行かない?街とかはいつも行っててつまんないじゃん」
「あ、それいいねさんせーい」
ええっと、今なんて言ったのだろうか。
「ね、茜いいでしょ?」
「あ、うん」
私は少し気持ちが沈んだ。
昔の出来事を思い出してしまったから。
あの日の出来事と私は重ねて考えてしまった。
頭の中にあの日のことがフラッシュバックする。
――たすけて!茜!
「茜、どうしたの?」
私は友達の声によって現実に連れも出された。
「いや、なんでもない」
その後の午後の授業に、私は集中することができなかった。
☆-----------------------
学校が文化祭の振休で休みのある日。
突然茜の友達から、LINEが来た。
茜が学校に来なかったらしい。
連絡も取れないようだ。
そのことについてなにか知っていることはないかと聞かれたが、僕は知らないと返した。
試しに茜に連絡してみたが確かに返信は来なかった。
僕はなにか嫌な予感がして、茜を探しに出た。
茜のよく行く場所、行きそうな場所、僕と一緒に行った場所。
茜の家にも行ってみたがどこにもいなかった。
僕は空がオレンジ色になるまで探し続けた。
ふと気がつくと僕は、空の狭間に戻ってきていた。
茜の姿もそこにあった。
「こんなとこにいたのか」
茜はびっくりしたようで、少し体を震わせた。
「和人か。びっくりさせないでよ」
「ここに来る人なんて僕らくらいしかいないじゃん」
「確かに」
茜はいつもと変わらないように、喋っているが、茜の顔には曇りが見えた。
「どうしたんだ?」
「和人には関係ないこと。ちょっと一人にしてくれない?」
茜はそう言うやいなや僕に背を向けた。
「そう言っても、ここには他に行くところがないだろ」
「私に近づかないでって言ったの」
茜は少し声を荒げて言った。
「なにか悩み事があるなら僕に言ってくれ。力になれることがあるかもしれないから」
「和人にこの悩みがわかるわけない!」
茜は感情を爆発させたように喋り始めた。
「そんな、言ってみないとわからないだろ」
動くと当たらないだろ!
「じゃあ和人にわかるの?!大切な人が目の前で死んじゃったときの気持ちを!!」
茜は喋り始めた。
昔私には親しい友人がいた。親友というやつだ。
ある日私達は二人で登山に行くことにした。
はじめのうちは何も問題なかった。
でも途中で川に差し掛かったとき彼女様子が少し変だった。
心配になって大丈夫?って声をかけたけど、彼女はいつもと変わらないように大丈夫って返してきた。
私達はそのまま進んでいった。
もう少しで山頂というところで彼女が急にその場に倒れた。
私はどうしていいかわからず頭が真っ白になった。
偶然通りかかった別の登山客が助けを呼んでくれた。
助けが来るまでの間彼女はずっと苦しそうだった。
救助隊が駆けつけてすぐに病院に搬送されたけど、間に合わずに彼女は病院で息を引き取った。
その日以来私は友達を作ることに恐怖を抱くようになった。
彼女の家族や友達はみんな私といつものように変わらずに接してくれた。
そんなみんなの態度が私の心を余計に締め付けた。
今までずっとその痛みをかかえていきてきた。
「その辛さがあなたにわかるの!?」
僕は何も言えなかった。
ザザ・・・ザ・ザッ
いつもの映像が流れた。
でもその映像はとても不鮮明だ。
何かをもう少しで思い出せる気がする。
でも何を、、、?
思い出せない。
今ここで思い出せなかったら大変なことが起こる気がする。
思い出せない。
茜になにかまずいことが起こる気がする。
それでも思い出せない。
このまま沈黙が続くとまずいと思った僕は、とりあえず、僕が思ったことを話してみた。
「人はいつか必ず死ぬ。それは変えられない運命だ。人が死ぬことはしょうがないこと。それを茜がいつまでも悔やんでいたらだめだろう。それよりも、その親友の代わりにしっかり生きなきゃいけないと僕は思う。」
そう僕が言い終わると、茜はおもむろに振り向き、
「和人も結局みんなとおんなじ事故とを言うんだね」
といった。
その時の茜の顔はひどく寂しそうだった。
そうして茜は元の世界に帰っていった。
僕の胸に不安が生じた。
嫌な予感がした。
僕も元の世界に戻るとすぐに茜の家を訪ねた。
何も返事がないのにドアが開けっ放しになっていた。
不安はさらに大きくなる。
僕は非常識と思いながらも茜の部屋まで一直線に走っていった。
茜の部屋に着きドアを開けるとそこにはリストカットをした茜の姿があった。
その後僕は救急車を呼んだ。
すぐに病院へ搬送されたが、病院につくまでの救急車の中で息を引き取った。
そして十年たった今でも、僕は忘れることができない。
今僕は茜と同じ気持ちだろう。
たしかに僕は人殺しだ。
僕はどうすれば彼女を救えたのだろうか。
僕が君と出会った空 風雅 @zemuri
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