月曜 A.M.9:30
「この『ベリーベリーパフェはちみつ仕立て季節の果物を添えて』一つ」
待ち合わせ相手は悪びれることなく席に座ると、やたら長ったらしい名前の食べ物――食べ物だよな?――を注文した。
「……今日はどんな御用件で?」
待たされた嫌味を飲み込んで丁寧に対応する。
相手は一応顧客だ、サービス業としては文句を言うことはできない。
「まぁ、待て。話はパフェが届いてからだ。じゃないと経費でパフェ代が落ちん」
いかつい顔してるくせに妙にせこい相手だ。
パフェを待つ間に相手の格好を確認する。
黒スーツにサングラス。
靴はフォーマルなものだが、値段はそこまで高くない。
おそらくスーツに合わせたのであろう、凄みのようなものが感じられる。
これがパフェを食う図を想像する。
「どうした、急に?」
「いや、なんでもないです」
思わずむせてしまった。
今日は普段と待ち合わせ場所が違うので不信に思っていたが、まさかこれが狙いだったのだろうか。
「お待たせしました。『ベリーベリーパフェはちみつ仕立て季節の果物を添えて』です」
予想の倍以上でかいパフェが机に置かれる。
パフェが邪魔で目の前の男の顔が半分しか見えない。
「よし、商談に移ろうか」
男はそう言って資料を取り出す。
これ幸いと俺は資料に目を落とし、出来るだけ男の方を見ないようにする。
「今回探してもらいたいのはこいつだ」
資料には相手の顔写真、経歴等が細かく記してある。
資料から目を上げずにたずねる。
「調査はどこまで?」
「先週夜逃げされてから実家や友人の家は抑えているが、全く足取りがつかめてない。捜索届けが出されてるようだから、完全に雲隠れしたようだ」
人が完全に姿を消す手段など数えるほどしかない
その中の一つを念頭に置いて話を進める。
「条件は? すでに死んでいた場合はどうしましょう」
「生死は問わない。居場所を探るまでがお前の仕事だ。期限は……特に定めなくても良いか。お前はそう待たせる奴じゃないと信じてるからな」
「いつも通り月ごとの報告で?」
「ああ、頼んだ。経費は申請してくれれば出そう」
こいつとの付き合いも長いので、確認も形式的なものに過ぎない。
話が早いのはありがたいが、こんな奴らと付き合ってる自身に情けなくなる。
目の前の男は金貸し、それもヤミ金と呼ばれる類の企業に所属してる男だ。
捜索を頼まれたのは夜逃げした顧客。
いつからか、俺はそういう人間を探し出す仕事をしていた。
褒められた仕事ではない。
そんなことはわかっている。
それでも、俺が身を立てるにはこれしかなかった。
その判断に後悔はない。
「それじゃ、お先に失礼します」
「いい結果を期待してる」
ここで相手の顔を見てしまった。
パフェは半分減っているが、顔がよく見えるようになった分破壊力が増している。
なにより鼻の頭の生クリーム!
卑劣な罠にかかりながらも、何とか笑いをこらえる。
うつむきながら早急に場を離れる。
当分はパフェを見るだけで笑ってしまいそうだ。
先ほど見た光景を振り払うために、その日は調査に没頭した。
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