第23話

「うわっ、なんだ?」

 奥村おくむらおどろきに答えるかのように、その男は現れた。

「いや、ご苦労くろう。さぁ、闇の蒼石そうせきを渡してもらおうか」

 声の主はSTRIKEストライクだった。黒いドラゴンと七体のドラゴンが、そこにたたずんでいた。僕はそれに違和感いわかんおぼえた。

 なぜ、STRIKEがここにいるんだ?闇の蒼石を手に入れるのを、見計みはからったように現れた。いくらなんでも、タイミングが良すぎる。

「お前、なんで攻撃しやがった!」

 奥村が怒鳴どなりつける。それも無理はない。堕天使との戦いの直後なのだ。HPが残り少ない。少しの攻撃で、死んでしまうおそれがあった。

「いやあ、話し掛けるのと攻撃ボタンを間違まちがえちゃってさ」

「わざとだろ!」

「ケンちゃん、落ち着いて」

 奥村をタカがなだめる。

「そんなことより、闇の蒼石を渡してくれよ」

「あぁ、闇の蒼石と独眼龍どくがんりゅうを交換だ」

「本当に手に入れるとは思わなかったがな……いいだろう。受け取れっ!」

 STRIKEがそう言うと、独眼龍どくがんりゅうが炎の玉を吐き出した。火球はグリフィンを直撃する。グリフィンの体が燃え上がった。

 グリフィンはなんとか、首の皮一枚で命を取り留めた。おそらく、反属性の攻撃だったら、命を落としていただろう。

「……あんた、独眼龍どくがんりゅうを返す気ないな?」

「ははっ、まだ返す気あると思ってんのか?」

「くっそ!みんな、戦えるか?」

 グリフィンは黒いドラゴンへと向きを変えた。

「やるしかないだろ!」

 人面鮫じんめんざめは、『いやしの激流げきりゅう』を発動はつどうする。頭上から、大量の水がグリフィンたちへ向かって落ちてきた。大量の水がグリフィンの傷を癒した。

「お前らに、俺様の真の力を見せてやる!」

 STRIKEがそう言うと、黒いドラゴンの背中に乗っていた人間は右腕をかざす。その手には光るなにかがあった。

 光がより強くなると、黒いドラゴンに他のドラゴンたちが吸い込まれ始めた。

「なんだ、あれは?」

「たぶん、融合ゆうごうだ!そういうアイテムがあるって聞いたことがある」

 独眼龍も含めて全て、黒いドラゴンの中へ取り込まれた。

「ははっ!このアイテムは、神獣しんじゅうの攻撃力を取り込む。これで攻撃力は一万五千を超えた!貴様きさまらなんぞ一撃いちげきだ!」

 STRIKEがそう叫んだ。

「おいおい、そんなのありかよ」

 アキラの絶望ぜつぼうしたような声がした。確かに、いくらなんでも強力過ぎやしないだろうか。ゲームバランスがくるってしまう。

 僕が疑問ぎもんを投げかけようとしたとき、タカが言った。

不正ふせいプログラムだ!」

「……タカ、どういうことだ?」

「あんなアイテム、存在しないんだよ。融合は確か二体までしかできないはずだし、攻撃力が足されていくなんて聞いたことがない!」

 不正プログラムを使用したから、あんなにもマリオネットを持つことができたのだろうか。ひょっとしたら、他にも不正を働いているのかもしれない。

 黒いドラゴンの頭上に『自然の束縛そくばく』と表示される。どこからともなく、植物のつるが伸びてきた。つるはあっという間にグリフィンたちにからみつき、身動きが取れなくなってしまった。

 黒いドラゴンは、攻撃の手を休めない。僕らはこの植物のつるが消えるまではどうすることもできない。まるで、サンドバックだ。

 黒いドラゴンが炎の玉を吐き出した。頭上には『極火計ごくかけい』の文字。その火球は巨大だった。火球は中野のゴーレムを直撃ちょくげきする。ゴーレムの体が燃え上がり、炎とともに消えてしまった。

 グリフィンたちを束縛そくばくしていたつるが消える。

「あいつ、属性はなんだ?」

 奥村の疑問に、コミちゃんが答える。

「俺が調べるよ」

 麒麟きりんが飛び上がり、その目が光り輝いた。頭上には、『超頭脳ちょうずのう』と表示されている。

「あいつ、全ての属性を持ってるよ!」

「全ての属性?なんの属性で攻撃しても、威力半減いりょくはんげんってこと?」

「たぶん!」

 さすがは不正プログラムだ。そんな神獣しんじゅう相手に戦えるのだろうか。

 一角竜いっかくりゅうが口から、光の玉を吐き出す。光の玉は一角竜の前方で、光の魔方陣まほうじん展開てんかいした。一角竜が魔方陣の中へ腕を突っ込み引き抜くと、その手には、なにもなかった。

 いや、なにもないわけではなかった。一角竜の手にほぼ隠れてしまっていて、見えなかっただけだった。

 その手の中にあるのは、なにかのコントローラーのようだった。一角竜は器用きように、ボタンを押した。

「さっきの戦いでレベルアップしたの!覚えたてのスキルよ」

 一角竜の頭上には『けの流星群りゅうせいぐん』とある。すると、頭上から、巨大なとげ付きの鉄球が落ちてきた。鉄球からは炎が噴き出している。

 鉄球は黒いドラゴンに直撃ちょくげきした。しかし、それだけでは終わらなかった。次から次へと鉄球が黒いドラゴンに降りそそぐ。確かに流星群のようだった。同じところに集中して落ちるような、悪意あくいに満ちた流星群はないだろうが。

 黒いドラゴンは、あまりダメージを受けていないようだ。防御力やHPさえも、他の神獣のを取り込んでいるのだろうか。

 グリフィンが、低く身構えた。頭上に『激怒げきど』と現れる。グリフィンの体に赤いオーラのようなものが見える。グリフィンも堕天使だてんしとの戦いに勝ったことで、レベルアップしていた。新しいスキルも二つ覚えた。これはそのうちの一つだ。グリフィンを攻撃した相手に対して激怒して、攻撃力が通常の三倍まで増加するらしい。

 ペガサスは翼を羽ばたかせた。ペガサスの頭上には『北風』と表示される。翼から発生した風が黒いドラゴンに吹き付ける。

 黒いドラゴンの体の中から、よろいかぶと、盾などが現れると吹き飛んだ。どうやら、北風は防御力を下げるスキルのようだ。

 黒いドラゴンは、口を大きく開いた。まるで、ワニのようだ。頭上には『一閃いっせん』。開いた口の中央に、光の玉が現れる。それは、徐々に大きくなっていく。口の中に納まりきらないほど大きくなると、グリフォンたちへ向けて一筋の光が放たれた。

 光は白龍はくりゅうへと向かっていく。光が白龍をつらぬいたかに思えたが、白龍の前にはナリミンのゴーレムが立っていた。光はゴーレムを貫いたようだった。ゴーレムは仲間の身代わりになるスキルを使用していたらしい。

 ゴーレムが足元から消えていく。

「タカ、このままじゃまずいぞ!なんかいい方法ないのか?」

「お前はこういうときばっかり……、それだ!」

 人面鮫じんめんざめの頭上に、『水蓮すいれん』の文字が表示される。堕天使に使用して、効果がなかったスキルだ。今、使用しても、この状況を打開だかいできるとは思えない。

 人面鮫の下に巨大なはすの花が現れる。黒いドラゴンの足元にも、蓮の花が現れた。人面鮫の下の蓮の花は、ゆっくりと閉じていく。それと同期するように、黒いドラゴンの足元の蓮も閉じていく。人面鮫と黒いドラゴンは、つぼみのように閉じた蓮の中へと隠れてしまった。

 一度は完全に閉じてしまった二つの蓮のつぼみが、今度はゆっくりと開いていく。完全に開ききり、蓮が花を咲かせる。そして、蓮の花はゆっくりと消えていった。

「今のスキルはなんだ?」

 STRIKEストライクが疑問の声を上げる。そう思うのも無理はない。人面鮫と黒いドラゴンに特に変化は見られなかった。

 黒いドラゴンが右腕をかかげる。すると、手には黒い玉が現れた。玉の周りには黒い煙がゆらゆらとれている。

「ダークドラゴン最強の技をくれてやるっ!ハッタリじゃなく、本物の技をな」

 ハッタリとは、先ほどの人面鮫のスキルのことだろうか。

 頭上には『サタンズ・アーム』の文字。黒いドラゴンが玉を地面に叩きつける。すると、地面には影が現れた。

 奇妙きみょうな光景だ。影の周りには何もない。なら、あの影はいったいなんの影なのだ。

 影の中から、巨大な漆黒しっこくの腕が現れた。その腕が伸びると、人面鮫を掴む。その手は、人面鮫をすっぽりと包んでしまうほど巨大だった。

 人面鮫を包んだ手が、人面鮫を握り締める。手の中から、人面鮫の苦しむような声が聞こえた。

 漆黒の手は満足したのか、人面鮫を投げ捨てると、影の中に消えた。地面にある影もゆっくりと小さくなり、消え去った。

 人面鮫の体に、赤い数字が現れる。ダメージを表す数値だ。それは一だった。

「ダメージ一だと?そんなバカなことが……」

 STRIKEが驚愕きょうがくの声を上げる。それはそうだろう。最強の技で一しかダメージを与えるとこができなかったのだ。

「自分の攻撃力を確認してみるんだな!」

「攻撃力?……な、なんでダークドラゴンの攻撃力が十二になってるんだ!」

「人面鮫の『水蓮すいれん』は、攻撃力を入れ替えるスキルなんだよ!つまり、あんたの攻撃力一万五千と人面鮫の十二を入れ替えたってわけだ」

 STRIKEは絶句し、声を発することができなかった。

「キョウ、さっきの『激怒』は攻撃力増加だろ?」

「ああ、攻撃された相手には攻撃力が三倍になる」

 急に、僕に話を振られておどろきつつ答える。

 人面鮫の下に、また巨大な蓮の花が現れた。グリフィンの足元にもだ。二つの蓮の花は同期どうきするかのように、ゆっくりと閉じていく。人面鮫とグリフィンは、つぼみのように閉じた蓮の中へと隠れてしまう。

「えっ?ちょっと……なんで、僕に『水蓮』使ってんの?」

 一度は完全に閉じてしまった二つの蓮のつぼみが、ゆっくりと開く。完全に開ききり、蓮が花を咲かせると、蓮の花は消え去った。

「これで、グリフォンは攻撃力四万五千だ!」

 そういうことか。僕はやっとタカの考えが理解りかいできた。

「ちょ、ちょっと待て!」

 STRIKEの声はあえて無視する。僕は、グリフィンの新しく覚えたもう一つのスキルを発動はつどうした。

 グリフィンの頭上に、『大地の怒り』と表示される。そして、翼を羽ばたかせると、舞い上がった。グリフィンは上空から勢いをつけて、落下する。その翼から、足から炎がき出し、よりスピードを増す。

 全身が炎の固まりになったグリフィンは、そのまま地面に衝突した。すさまじい衝撃しょうげきが起こる。

 地面が揺れ出した。揺れは徐々に大きくなる。そして、立っていられないのではないか、と思われるほどにまでなった。

 突然、グリフィンが衝突した部分がひび割れる。地割じわれだ。城の中、五階まで一気に裂けたらしい。地割れの大きさは、神獣しんじゅうを飲み込んでしまいそうなほど巨大で、深さは計り知れない。

 地割れの部分から、マグマが噴き出した。マグマは、まるで意思があるかのように、黒いドラゴンを包み込んだ。

 ドラゴンが咆哮ほうこうする。それは凄まじいものだった。八体のドラゴンが同時に咆哮しているように感じられたほどだ。

 マグマが地割れに吸い込まれ、地面が閉じる。今の凄まじい光景がうそだったかのようだ。なにもかもが元通りに戻った。黒いドラゴンを除いて。

 黒いドラゴンは、足元からゆっくりと消え始めた。

「うそだろ、人面鮫なんかに……」

 STRIKEはそう言い残して、消えた。

「やったー!倒したぞ!」

 僕らは歓喜かんきふるえた。しかし、あまりその余韻よいんひたっている時間はなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る