第22話

 堕天使だてんしが右手をかざした。堕天使の頭上に、『黒雨こくう』と表示される。空から、黒い雨が降り出した。黒い雨は辺りいったいをおおくす。逃げ場はなかった。

 それは、周りにいたモンスターたちをも傷つけるものだった。黒い雨で、モンスターの大半は消え去った。

 グリフィンたちへのダメージもそうとうのものだった。体力の半分近くをうばわれた。コミちゃんの麒麟きりんが、『獅子ししの舞い』を発動はつどうする。

 麒麟は堕天使へと突進とっしんすると、ダンスでもおどるように堕天使の周りを回転する。その回転のすさまじさに、巨大な竜巻たつまきができた。竜巻の中には、堕天使がいる。堕天使の周囲に、風の獅子ししが現れると、次々と突進する。堕天使は、苦しそうな声を上げた。

 反撃はんげきとばかりに、堕天使が左手をかざす。雨の次は、『闇のいかずち』だ。黒い雷はアキラのペガサスをつらぬいた。ペガサスが足元から、消え始める。

「アキラー!」

「くっそー、すぐに戻ってくるからな!」

 アキラはそう言って、姿を消した。

 人面鮫じんめんざめは、『いやしの激流げきりゅう』を発動はつどうする。頭上から、大量の水がグリフィンたちへ向かって落ちてきた。まるで滝のようだった。その水を浴びると、グリフィンたちの体力が回復した。

 グリフィンも『憤怒ふんぬ』を発動する。グリフィンの体を赤いオーラのようなものがつつむ。先ほどの怒りよりも、攻撃力が増加する。攻撃された相手には通常の倍の攻撃力となるのだ。

 ゴーレムたちが、変形へんけいを開始した。どうやらナリミンと中野は同時に同じスキルを使用したようだ。ゴーレムは、巨大なこぶしへと姿を変えた。『巨岩拳きょがんけん』だ。その拳で、堕天使を殴りつけた。

 堕天使の顔が、苦痛くつうゆがむ。しかし、倒れる気配はなかった。

 また、堕天使が左手をかざした。黒い雷は、麒麟きりん直撃ちょくげきした。麒麟も足元からゆっくりと消えていった。

 そして、しばらく戦況せんきょう停滞ていたいした。みんなの頑張りの賜物たまものだった。しかし、徐々じょじょに押され始めていた。HP回復薬も残り少なくなっている。

 アキラとコミちゃんは、すぐに戦闘に復帰ふっきした。どうやら死んでしまっても、城の前で復活ふっかつするらしい。その際、少しのお金となんらかのアイテムを一つ失うが。

「このままじゃ、まずいな」

「タカ、なにかいい方法はないか?」

「こんな状況でいい方法なんて……あった!」

 人面鮫じんめんざめの頭上に、『水蓮すいれん』の文字が表示される。これが、この状況を打開だかいするいい方法なのだろうか。

 人面鮫の下に巨大な花が現れた。はすの花だった。堕天使の足元にも、蓮の花が現れた。人面鮫の下の蓮の花は、ゆっくりと閉じていく。しかし、堕天使の足元の蓮には変化がない。人面鮫は、つぼみのように閉じた蓮の中へと隠れてしまった。

 突然、蓮のつぼみが、ガラスを割ったかのように砕け散った。堕天使の足元にあった蓮の花も、地面へと消えていく。

「失敗だー!よく考えたら、ラスボスにこんな技がくわけねえ!」

「なにやってんだよ!」

 グリフォンは、口から巨大な炎を吐き出した。頭上には『ヘル・フレイム・トルネード』の文字。炎はグリフィンの前に玉のような形でとどまった。まるで、小さな太陽だ。その場に小さな太陽を残し、グリフィンは空へと舞い上がる。そして、体をきりもみさせながら落下。それは、竜巻たつまきが降ってくるようだった。竜巻は、小さな太陽の中へと突っ込み、やぶる。その際、竜巻は炎をまとったようだ。炎でできた竜巻が、堕天使へぶつかる。すると、堕天使の全身は炎に包まれた。

 炎に包まれたまま、堕天使は片膝かたひざをついた。とうとう堕天使を倒すことができたのだろうか。

 しかし、堕天使は立ち上がる。体を包んでいた炎が、消え去った。

 堕天使が、両手をかざす。堕天使の頭上に『ルシファーズ・アーム』と表示された。

 中野のゴーレムの影が、大きく広がる。影の中から、巨大な漆黒しっこくの腕が現れた。その腕はゴーレムをつかむと、影の中へと引きずり込む。ゴーレムが姿を消すと、影はゆっくりと小さくなり、消えた。

「……うそだろ?」

 タカがすっとんきょうな声を上げた。

「タカ、どうした?」

「今の技には、気をつけろ!たぶん、HPに関係なく一発で即死そくしだ」

「マジで?」

 僕の代わりに、奥村おくむらが聞いた。

「今、中野はHP満タンだったんだ」

 タカはチームの回復役だ。常に、メンバーのHPなどに気を配ってくれているのだ。

 話しながらも、奥村の白龍はくりゅうは『疾風怒濤しっぷうどとう』のスキルで攻撃する。いまだ、堕天使は倒れない。

 また、堕天使が、両手をかざす。頭上に『ルシファーズ・アーム』と現れた。

「またくるぞ!」

 僕がそう言った次の瞬間、ナリミンのゴーレムの影が大きく広がる。影の中から、巨大な漆黒の腕が現れ、ゴーレムを影の中へと引きずり込んだ。

 また、ゴーレムだ。堕天使は、ゴーレムに恨みでもあるのだろうか。

 一角竜いっかくりゅうが、口から光の玉を吐き出した。一角竜の頭上は、『けの彗星すいせい』となっている。光の玉は一角竜の前方で、光の魔方陣まほうじん展開てんかいする。一角竜は魔方陣の中へ腕を突っ込み、引き抜いた。その手には、巨大なくさりがある。鎖の先は、いまだ魔方陣の中だ。一角竜は、その鎖を堕天使へ向けて振るう。頭上から、巨大なとげ付きの鉄球が落ちてきた。そこまでは『けの明星みょうじょう』と変わらなかった。

 違っていたのは、棘付きの鉄球の所々から、炎がき出しているということだ。炎が噴き出すことで、より落下スピードを高めているようだ。炎は徐々に大きさを増し、やがて一つのかたまりとなった。

 それは確かに彗星のようだった。炎が、彗星の尾を形作かたちづくっている。彗星のかくは、巨大な棘付きの鉄球だが。

 彗星は、堕天使めがけて落下した。すさまじい衝撃しょうげき。ひょっとしたら、中心部はクレーターができているかもしれない。

 彗星が直撃した堕天使は、両膝りょうひざをついていた。突然、体をらせると、頭を押さえて苦しみだした。その声は、筆舌ひつぜつくしがたいほどの禍々まがまがしさだった。

 堕天使の頭から、黒い煙が上り始めた。黒い煙は風に消されるかのように、登るそばから消えていく。すでに、口の辺りまで消えてしまっていた。

 そうして、堕天使の体はゆっくりと黒い煙に変化し、消えていった。

「これって……まさか、倒したのか?」

「えっ?うそ、私が……」

 とどめの一撃を加えたアヤさえ戸惑とまどっている。

 堕天使が完全に消えると玉座ぎょくざくずれ、中から宝箱が現れた。宝箱が自動的に開く。中のアイテムが青白い光を放っていた。

「……やった。倒したんだ!僕たちは勝ったんだ!」

「やったな!」

「あいつ、強かったなー。」

 みんな、口々に感想かんそうを述べる。僕はバンザイでもしたい気分だった。いや、それよりもとどめをしたアヤを胴上げだろうか。どちらもゲームの中では無理な話だが。

「さて、闇の蒼石そうせきを取っちまおうぜ」

 タカがうながす。僕はそれに答えた。

「じゃ、とどめを刺したアヤに……」

 言い終わらないうちに、一筋の光がこちらへ向けて発射された。光は白龍をつらぬいた。

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