第21話

 翌日は休日だった。僕らはいつものように待ち合わせをした。全員が集まると、フォースという街へ向けて出発する。

 途中、出会ったモンスターとは積極的せっきょくてきに戦った。フォースという街に着くまでに、少しでもレベルを上げておきたかったからだ。

 フォースの周辺のモンスターは、セカンド周辺よりも手ごわかった。フォースに着くと、解散して、休憩きゅうけいを取ることにした。

 一時間後、僕らは再び集まった。目指す城は、もう目の前だった。

 城に到着すると、城内へと足を踏み入れた。城内は静まり返っている。声を出したらいけないような、重たい空気。それが、僕らをつつんでいた。

 僕らは無言で、城内を歩き回った。上へ登る階段を見つけ、一階から二階へ。そこで、僕は初めて城内の違和感いわかんに気が付いた。

 よくあるゲームでは、ラスボスの城と言えば、悪魔の巣窟そうくつだ。ボスを守るため、凶暴きょうぼうなモンスターでくされているはずだ。しかし、この城はなんだ?すでに二階へと上がったにもかかわらず、一体のモンスターも目にしていない。それが、逆に恐怖きょうふをかきたてた。この城の主は、手下のモンスターに守ってもらう必要がないほどの強さをほこっているのだろうか。

 二階から三階。三階から四階と上がっていく。モンスターの影も形もない。そして、五階。とうとう、玉座ぎょくざの前までやってきてしまった。

 玉座には、一体の神獣しんじゅうがいた。それはグリフォンだった。頭も体も翼も、全て漆黒しっこくのグリフォン。背中には人間が乗っている。プレイヤー名はNRVNQSRだ。肩にはエンブレムらしきものがあった。赤く「666」と描かれている。

「これが……ラスボス?」

 僕がそうつぶやくと、その男が口を開いた。

諸君しょくん、ようこそ我が城へ。我が名はネロ。ヴァースを支配する者だ。諸君らが、城に入ったことは知っていたよ。だが、あえてっ!」

 パチンと、指を鳴らすような音がした。すると、先ほどまでは影も形もなかったモンスターたちが、城内に溢れ出した。あっという間に、僕らは取り囲まれてしまった。

「この城へ立ち入るおろか者たちの顔を見るため、ここまで案内したまでにすぎん。大方、やみ蒼石そうせきを手に入れるために、やってきたのであろう?どうやら、頭は弱いらしいな」

 ネロの演説えんぜつは、さらに続く。

「我が軍門ぐんもんくだれ!そうすれば、命は助けてやろう。働き次第しだいでは、世界ヴァースの半分をくれてやってもいいぞ」

「断る!」

 僕らの声がそろった。答えは一致いっちしている。仲間にしてもらうために、やってきたわけではないのだ。

「ならばっ、死ぬがいい!我が、六百六十六の獣の力を見せてやろう!」

 ネロがそう言うと、漆黒しっこくのグリフォンがおそい掛かってきた。グリフォンの頭上に『闇の息吹いぶき』と表示される。そして、黒い煙のようなものを吐き出した。まるで、夜の闇が口からあふれているようだ。

 黒い煙がグリフィンたちを包み込む。一瞬、画面が暗転あんてんし、グリフィンたちが咆哮ほうこうする。どうやらあの黒い煙は、グリフィンたちには有害ゆうがいらしい。

 奥村おくむら白龍はくりゅうが、反撃はんげきする。白龍は、僕らのチームで一番素早い。いつも、攻撃をするのは白龍が最初だった。

 白龍の頭上に『疾風迅雷しっぷうじんらい』と浮かぶ。次の瞬間、白龍の姿が見えなくなる。漆黒のグリフィンが咆哮すると、また白龍は姿を現した。漆黒のグリフォンの体に数値が表示される。目にも止まらぬ攻撃ということだろうか。

 立て続けに、一角竜いっかくりゅうが攻撃する。『けの明星みょうじょう』。一角竜は口から光の玉を吐き出した。光の玉は一角竜の前方で、空中に見えない壁でもあるかのように広がった。そして、光の魔方陣まほうじん展開てんかいする。光の魔方陣は、まるで巨大な姿見すがたみだ。魔方陣が本当に鏡なら、巨大な一角竜の姿を映し出していただろう。

 一角竜は魔方陣の中へ、腕を突っ込み、なにかをつかむと引き抜く。その手には、巨大なくさりがあった。鎖の先は、いまだ魔方陣の中だ。

 一角竜は、その鎖を漆黒のグリフォンへ向けて振るう。すると、頭上から画面に収まりきらないほど巨大な、とげ付きの鉄球てっきゅうが落ちてきた。そのまま、漆黒のグリフォンへと叩きつける。

 漆黒のグリフォンがまた咆哮する。頭の上に、あんなものを落とされれば咆哮もするだろう。

「タカ、なんでラスボスがグリフォンなんだ?」

 僕は戦闘せんとう最中さいちゅうだが、タカに問い掛けた。

「わからない。六百六十六の獣だろ。毎回、違う姿をしてるんじゃないの?それか、財宝ざいほうを守ってるからなんじゃないか?」

「財宝を守ってるから?」

「自分が使ってる神獣しんじゅうのことぐらい、知ってろよ。グリフォンの役目は二つ。神々の車を引くことと、よくに目がくらみ、財宝に手を出した人間を処罰しょばつすることだ」

 なるほど、今は僕らがその財宝に手を出した人間ってわけだ。

 漆黒のグリフォンが、空中へと舞い上がる。頭上に『闇の翼』と表示された。そのまま、漆黒の翼を広げて、落下する。翼はグリフィンたちの体を切りく。また、チーム全員が傷を負った。

 グリフィンが、低く身構みがまえた。頭上に『怒り』と現れる。初めて使うスキルだ。グリフィンを攻撃した相手に対して怒り、攻撃力が増加する。 

 僕らは八人のチームだ。今回のように一対八で戦っていると、どうしてもこちら側の攻撃が多くなる。そのためチームでの戦いは、短期決戦たんきけっせんが多い。しかし、今回の敵はラスボスだ。当然、長期戦が予想される。早い段階で、攻撃力の増加をはかっておく必要があった。

 それから、何度となく攻撃した。さすがにゲームで最強の座を誇っているだけのことはある。戦いが長引きそうだ。

 ナリミンのゴーレムがくずれて、石の山を作った。その無数の石は、漆黒のグリフォンへおそいい掛かった。何百という石が、漆黒のグリフォンの体を殴りつけていく。次から次へと。そして、役目の終わった石は、また人型を作った。

 漆黒のグリフォンは、まだ倒れない。

 グリフィンは、口から巨大な炎を吐き出した。頭上には『地獄じごく業火ごうか』の文字。炎のかたまりは、漆黒のグリフォンを包み込んだ。漆黒のグリフォンの姿が見えなくなるほど、巨大な炎だった。

 炎が治まると、漆黒のグリフォンが雄叫びを上げた。苦しそうな声だ。

「倒したのか?」

 僕は、思わずつぶやいた。また、ネロが口を開く。

「欲に目のくらんだ人間の分際ぶんざいで、なかなかやるではないか。ならば、六百六十六の獣の真の力を見せてやろう!」

 漆黒のグリフォンは、咆哮を上げる。すると、咆哮している口から闇があふれ出した。次は目。そして、前足にひびでも入ったかのように闇がれ始める。グリフィンが進化したときにそっくりだった。今回は光ではなく、闇だったが。漆黒のグリフォンの体全てから、闇が溢れだした。画面は暗転あんてんし、漆黒のグリフォンは巨大な黒い玉へと変わっていた。

 突然、その黒い玉にひびが入った。その姿は、漆黒の卵のようだ。ひびはどんどん広がっていく。また、中から闇が溢れ出した。

 闇が溢れたその場所から、黒いなにかが姿を現した。巨大な黒いミミズのようなものが、四本つらなっている。それが、もぞもぞと動くと、新たに四本の黒いミミズが現れた。合計八本になった黒いミミズは、内側から卵のひびを広げているかのようだった。

 ひびがゆっくりと開き、中に人の顔が見て取れた。人の顔も真っ黒だ。しかし、それは明らかにサイズがおかしい。漆黒の卵よりも大きかった。漆黒の卵が完全に割れると、徐々じょじょに黒い巨人の姿があらわになっていく。黒いミミズのようなものは、どうやら指だったようだ。ゆっくりと卵からい出る姿は、マンホールから出てくるゾンビのようだった。

 いまや、完全に黒い巨人が姿を現した。黒い巨人は、ゴーレムの三倍以上あるようだった。人間の何倍あるのだろう。とてもじゃないが、換算かんさんできない巨大さだった。

 黒い巨人の背中には、翼があった。翼も漆黒だ。翼は片側だけで、六枚あった。六枚の翼のうち、上の三枚はわしのような翼だ。そして、下三枚はこうもりのような翼。それがついになっている。よって、背中の翼は、合計十二枚だ。

 それは黒い天使だった。体の色、そして身に付けているものも全て黒一色だった。おそらく、堕天使だてんしなのだろう。

 堕天使の元には、ネロの姿はなかった。漆黒のグリフォンと、ネロが合体した姿が堕天使なのだろうか。

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