第20話

 生徒会長は、一週間ほどで退院したらしい。退院から一週間立った今でも、まだ学校には出てきていないようだった。

 僕らはやっとのことで、つい灰色はいいろダイヤを購入する資金を確保することができた。少しだが、対の灰色ダイヤを安く売っているプレイヤーの店を見つけたのが幸いした。

 対の灰色ダイヤを手に入れた僕らは、マリオネットとともにアヤに渡した。アヤは、この前の男にメールを書いて呼び出した。メールの内容も、僕らと一緒に考えた。ただ、アイテムを返すと言ったら、来ないかもしれない。話したいことがあるとだけ書いた。

 アヤは一人で行くと言ったが、僕らもついていくことにした。待ち合わせ場所には、すでにその男らしきプレイヤーが待っていた。

 そのプレイヤーは僕らに気付くと、話しかけてきた。

「なんだ、ぞろぞろと。俺様にPKでもする気か?」

 アヤはそれを否定し、話を切り出した。

「いいえ、違います。もらったアイテムを返しにきたんです」

「アイテムを返すだ?そんなことして、なんの意味があるってんだ。あんたは俺のアイテムを使って進化してるじゃねえか」

 アヤはそれ以上、なにも言えなくなってしまった。僕が助けぶねを出す。

「けじめだよ。あんたのアイテムは、いらないってさ」

「なんだ、お前は。いらないって、使ってるじゃねえかよ」

「アヤはそれも後悔こうかいしてるんだよ。アイテムを返すために、必死ひっしになって金を集めたんだ。受け取ってやってくれよ」

 僕がそう言うと、男はしぶしぶ納得なっとくしたようだった。アヤから、アイテムを受け取った。

「よーし、これでアイテム返却へんきゃくクエストは終了だ!みんな、ありがとう!」

 僕はチームモードで、みんなにそうげた。

「みなさん、本当にありがとうございました!」

 アヤも、みんなにお礼をべる。

「やったー!」

「お疲れさーん!」

「これからどうする?みんなでできるクエストでもやろうか」

「とりあえず、セカンドで作戦会議しようか?」

 みんなも肩の荷が下りたのか、一斉いっせいに話し始めた。そして、街へ向けてゆっくりと動き出す。

「……キョウ?」

 僕はその場を動かなかった。それにタカが気付いた。

「行ってくれ。ここからは僕個人の問題だ」

 タカにそう告げると、僕は男に話し掛けた。

「ちょっといいかな?……その独眼龍どくがんりゅうどうしたの?」

 そのプレイヤーは異常いじょうだった。プレイヤー名はSTRIKEストライク。そのSTRIKEの神獣しんじゅうの黒いドラゴンの周りに、七体のドラゴンがいる。周りのドラゴンに乗っているのはマリオネットだろう。素材そざいは木だろうか?木のようなものでできた人形が、ドラゴンの背中にいる。人形の頭の上には、プレイヤー名がない。そして、七体のドラゴンの中に独眼龍がいたのだ。

 STRIKEは一個、百万もするマリオネットを、一人で七個持っていることになる。アヤのも入れたら、八個だ。一人でそれだけの額を稼げはしないだろう。タカが言っていたように、かなり胡散臭うさんくさいプレイヤーだ。

「独眼龍?あぁ、合体広場で捕まえたんだよ。それがどうしたってんだ」

「返してくれ。前の持ち主が、かなりのショックを受けてるんだ」

「そんなこと知るか。そいつが神獣を捨てたから、はぐれになったんだろ」

 僕には、そうは思えなかった。生徒会長が独眼龍のプレイヤーだったらの話だが。

「そうは見えなかった。ショックで体調をくずして、入院するぐらいだからね」

「入院……」

 STRIKEはそう言って、しばし絶句ぜっくした。

「独眼龍、返してもらえないかな」

「お前、本当にそいつを知ってるのか?適当なこと言って、俺様から独眼龍をだまし取ろうってんじゃないだろうな」

「知ってるさ、前のプレイヤーはMASAMUNEまさむねだろ」

 僕はSTRIKEにカマをかけた。MASAMUNEの独眼龍でなかったら、返してもらう必要はない。しかし、そうだった場合は、どんなことをしてでも取り返す。

「……ふん。だが、今は俺様のだ!はい、そうですかと渡すわけにはいかねえな」

「なにが望みだ」

「独眼龍はレアな神獣だ。そう簡単には渡せねえな。……そうだな、一千万用意してもらおうか」

「一千万?そんなの無理だ!」

 百万でさえ、みんなに協力してもらってやっと集めたのだ。一千万なんて、何年掛かるかわからない。

「じゃあ、あきらめな。……待てよ。なら、あるアイテムを取ってきてもらおうか」

「あるアイテム?」

「そうだ。ここからずっと南下すると、フォースって街がある。その先に城があるんだ。知ってるか?」

「いいや、その城にアイテムがあるのか?」

「あぁ、その城の一番奥にあるという『闇の蒼石そうせき』を持ってきてもらおう」

「わかった」

 急にタカが割って入ってきた。

「ちょっと待て、キョウ。それも無茶むちゃだ」

「ふん、手に入ったら連絡してこい。それまで、独眼龍は大事に取っておいてやる」

 STRIKEはそういうと、飛び去った。

「キョウ、お前なんて約束をしちまったんだ」

 タカが、僕にめ寄ってくる。結局、チーム全員が今の話を聞いていた。

「仕方ないだろ。それにこれは僕の問題だ。僕一人でなんとかするよ」

 それを聞いて、みんなが一斉に口を開いた。

「俺たちは仲間だろ!」

「そうだよ、キョウちゃん」

「そうですよ!」

「また、新しいクエストが始まっただけでしょ。このチーム限定げんていのさ」

「……みんな」

 自然と込み上げてくるものがあった。これがゲームで本当によかった。もし、現実で顔を合わせていたら、涙にうるんだ顔をみんなに見られるところだった。

「それに、闇の蒼石がなにかも知らないだろ?」

 そういえば、そうだ。僕は独眼龍を見て、頭に血が上っていた。体の中をどす黒いマグマのようななにかが、支配していた。そして、それを押さえ込むので精一杯せいいっぱいだったのだ。

「タカ、闇の蒼石ってなんなんだ。そんなに価値のあるもんなのか?」

 みんな、その場で輪を作っていた。

「闇の蒼石を手にしたものは、この世界ヴァースを支配できると言われている」

「ヴァースを支配……」

 誰かがつぶやいた。タカは続ける。

「そして、闇の蒼石を持っているのはラスボスらしい」

「ラスボス?」

 僕はおどろいて、声が裏返うらがえった。ゲームには要所ようしょ、要所で、ボスと呼ばれる通常のモンスターとはくらべものにならないほどの力を持ったモンスターが現れる。試練しれん洞窟どうくつの一つ目の巨人や、進化の塔の三つ首の巨大な犬も、その一つだ。

 ラスボスは、そのゲームにおける最終の、そして最大のモンスターだ。ラスボスを倒すことで、ゲームは終了する。最近のゲームは、その後も冒険を続けることができるものもあるが。

「ラスボスが持っているアイテムを持ってこいか。確かに無茶だね。……でも、やるしかない!それしか、あの独眼龍を取り戻す方法はないんだから。さあ、ラスボスを倒しに行こう!」

「ちょ、ちょっと待て。まさか、キョウ。これから行くつもりか?」

「うん。だって、早い方がいいでしょ?」

 しかし、さすがにそれは全員に止められた。もう時間が遅いし、まったく準備ができていないのだ。ラスボスの城へ乗り込むには、回復薬をたくさん買い込むなど、それなりの準備が必要だった。

 僕らは明日、城へ乗り込むことにした。

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