第19話

 それから数日。僕らは相変わらず、資金集めを続けていた。そんなとき、その事件は起こった。

 僕らは平原にいた。セカンドの方へ向けて、一体の龍が飛んで行った。真っ黒な体に血のような赤い角。独眼龍どくがんりゅうだ。

 独眼龍は、すさまじい咆哮ほうこうを繰り返しながら飛行している。そして時折、炎のかたまりを吐き出した。炎は何を狙っているわけでもないようだ。まるで、八つ当たりのようだ。あやうく、僕らも炎に当たるところだった。

 独眼龍の背中には、誰も乗っていなかった。タカから聞かされていた、はぐれ神獣しんじゅうのようだった。

 あの独眼龍は、僕らを助けてくれた独眼龍とは別だったのだろうか。それとも、なんらかの理由で独眼龍とプレイヤーがはぐれてしまったのか。

 独眼龍を見てから、三日後。僕らの学校でも、事件が起こった。その情報を手に入れてきたのは、もちろんタカだった。

「キョウ、知ってるか?生徒会長が倒れたらしいぞ。今、入院してるんだって。」

「ふーん、病気にでもなったの?」

「いいや、ここ三日ほど学校に来ていなかったらしいんだが、休んでいた理由は病気ではないらしい。無断欠席むだんけっせきだったらしいよ」

 生徒会長が無断欠席とは、意外だった。まあ、生徒会長も人間だ。学校へ行きたくないときだってあるだろう。あの真面目が服を着ているような生徒会長が、無断欠席をするイメージはないが。

「無断欠席で……倒れたの?」

 それでは話が通じない。なにか大事なところが、抜け落ちている。

「うん。どうやら無断欠席して、近所の公園にいたらしい。親には学校へ行ったって言ってな。で、夕方には、家に帰るわけだ」

「ドラマでよくある、リストラされて家族に言い出せないお父さんみたいだな」

「真面目に聞けって。倒れた理由は、三日間寝ずにゲームをやっていたらしいんだ」

「三日間寝ずにゲーム?あの生徒会長が?」

 僕には、生徒会長がゲームをやること自体が意外だった。

「そう、それに三日前からって気にならない?」

「三日前……、あの変な独眼龍どくがんりゅう!」

 タカは無言でうなずく。僕は、自分の席でナリミンと話している中野を呼んだ。

「中野!生徒会長の下の名前ってなんだっけ?」

「確か……正宗まさむねだけど」

 僕とタカは顔を見合わせた。あの独眼龍のプレイヤー名は……MASAMUNEまさむねだった。

 放課後。僕とタカ、中野は、生徒会長が入院している病院へ行ってみた。受付で部屋の場所を聞き、部屋の前まで来たところで足を止めた。中から怒鳴どなり声が聞こえたのだ。

「いい加減にしろ、正宗!そんな状態で、ゲームなんてできるわけがないだろ!」

「取り返すんだ!取り返さなきゃならないんだ!」

 結局、僕らは病室に入るのを止めた。今は僕らに会いたくないだろう。僕らも、今の生徒会長にかける言葉が思い浮かばなかった。

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