第16話

「追加アイテムは、その週に新しくゲームを始めたプレイヤーに、プレゼントされることがあるらしい。もちろん、全員じゃなくて数人単位だろうけど。もう一回ゲームを初めて、もらえるのを待つとかな」

「マリオネットとかは、もう追加されちゃってるからだめなんじゃないの」

「……そうだな。やっぱり、人海戦術じんかいせんじゅつかな」

「人手を増やすってこと?」

 タカはそれに無言でうなずく。確かに、大人数のほうが早いだろう。一万ヴァースドルを百人から集めれば、百万なんてあっという間だ。百人も知り合いがいて、快く出してもらえればの話だが。

「人手か……」

 また僕らの間に、沈黙ちんもくおとずれた。しばらく無言で歩いていた。

 すると、後ろから声を掛けられた。

「おっす!キョウちゃん」

 振り返ると、そこには一人の少年が立っていた。

「なんだ、アキラか」

 その少年は、涼風明すずかぜあきら。教室のでの席も近く、よく一緒に遊んでいる友達だ。僕とはクラブ活動も一緒だった。

 アキラは生粋の眼鏡めがねっ子だった。僕は眼鏡を外している顔を、見たことがない。一度、誰か――僕か、タカか、それとも他の友達か、覚えていない――が聞いたことがあった。たぶん、眼鏡からコンタクトに変えるって話をしていたときだった。

「いつ、眼鏡外すの?」

「寝るときしか外さないよ」

「風呂の時は?」

「したままだよ」

 僕らはその答えに、拍手はくしゅだった。もう眼鏡は、完全にアキラの体の一部だったのだ。

 アキラはかなり後ろから僕らを見かけて、走ってきたらしい。息を切らしていた。ということは、僕らは周回遅れかもしれない。そろそろ、真面目にマラソンした方がいいだろうか。

「なんだはないでしょ、なんだは!」

 言いながら、アキラは僕の肩を叩く。アキラと、今の僕のテンションにはかなりのひらきがあった。

 思い切り肩を叩かれた衝撃しょうげきか、僕の頭にあることが思い浮かんだ。

「アキラ、最近ゲームやってる?」

 僕の問いかけに、全てを察したタカもアキラの顔をのぞき込む。

「やってるよ!ビースト・オブ・ザ・ゴッドってゲーム」

 僕とタカに、笑顔の花が咲いた。

「レベルは?チーム組んでる?」

 タカが、矢継ぎ早に質問をする。アキラは僕らの豹変ひょうへん振りに、目を白黒させながらも答えた。

「レベルは四十六だよ。タロウと一緒にミッドナイトってチームに入ってるよ」

 タロウというのは、アキラの親友だ。小宮山太郎こみやまたろう。今は別のクラスだ。アキラと仲がいいので、僕らも何度か一緒に遊んだことがある。僕とタカはコミちゃんと呼んでいた。

「……そっか、入ってるのか」

 今度は落胆らくたん。アキラは、なにがなんだかわからないといった表情を浮かべている。

「実はさ……」

 僕はダメ元で、これまでの経緯けいいをアキラに話した。できれば、少しでも協力きょうりょくしてもらえるとありがたいのだが。

「そういうことか。じゃあ、俺をドラゴンバスターに入れてよ。タロウもさそうからさ」

「えっ、大丈夫なの?」

「うん、キョウちゃんたちとやった方が楽しそうだし」

 僕はタカと顔を見合わせた。そして、抱き合って喜んだのだ。それに、なぜかアキラも加わる。そして、三人で輪になって、その場で回転を始めた。

「お前ら、男同士で抱き合って変態へんたいか?」

 突然、後ろから声がした。振り返ると、そこには一人の男が立っていた。

「バングラ先生……」

 その男は、体育教師だった。誰が言い出したのか知らないが、バングラ先生と呼ばれていた。バングラディッシュ人っぽいというのがあだなの理由らしい。近所のお兄さん的な印象で、生徒からの人気は抜群ばつぐんだった。

「ふざけるのは、終わり終わり。もうすぐ授業終わるから、校門まで真面目に走って!」

「はーい」

 僕らは声を合わせてそう答えると、輪を崩したのだった。

 体育の授業が終わり、教室へ戻る。僕とタカ、アキラは一緒に教室へと戻っていた。

「そういえばさ、成宮なりみや中野なかのもビースト・オブ・ザ・ゴッドやってるらしいよ」

 アキラは言いながら、前方を指差した。僕らの少し前を、少年二人が歩いている。その二人は、成宮一穂なりみやかずお中野誠なかのまことだった。

「ナリミンと中野か」

「……一応、声を掛けてみるか」

 成宮のあだ名は、ナリミンだ。実は、ナリミンの家は僕の前にある。いわゆる幼なじみってやつだ。僕とナリミンは、去年も同じクラスだった。

 ナリミンの弱点は乗り物だ。異常なぐらい、乗り物に酔いやすい。僕は、あれほど乗り物酔いする人間を見たことがない。去年の遠足で、僕らの座席は隣同士になった。バスが学校を発車して、わずか十分。ナリミンは、僕の隣でもどしていた。

 遠足では乗り物酔いしたときのために、各自エチケット袋を持っている。エチケット袋は、ビニール袋の上に紙袋をかぶせたものだ。自分のもどしたものを他人が見て、もらってしまわないようにというのがエチケットらしい。

 ナリミンは出発わずか十分でもどし始め、自分のも僕のエチケット袋も使い果たした。そして、透明なビニール袋にももどした。

 僕はそれを見て、驚愕きょうがくした。ナリミンは、赤いものをもどしていた。僕はあまりにもどしすぎて、血を吐いたのかと思ったのだ。

「大丈夫、赤いのって血じゃないの?」

「ううん、今朝すもも食べてきたから」

 乗り物弱いのに、遠足の朝にすももって……。そして、あまりのもどしっぷりに、先生はナリミンを一番前の先生の隣の席へと呼びよせた。そのおかけで、僕は孤独こどくなバスの時間を過ごすことになったのだった。

 一方、中野には特にあだ名はなかった。みな一様いちように、苗字みょうじである中野と呼んでいる。僕とは今年から一緒のクラスになった。アキラは去年から一緒だったらしく、仲が良かった。中野は人をまとめることが好きなようで、うちのクラスの学級委員を務めていた。僕とアキラが推薦すいせんしたのだ。

 中野は学級委員だからだろうか、やけに顔が広かった。同じ学年だけでなく、上級生と下級生にもそうとうな数の知り合いがいた。確か、生徒会長とも知り合いだった。おそらく次の生徒会長を狙っているのかもしれない。

 その休み時間は、着替えるので精一杯だった。体育の授業は、体操着に着替えなくてはいけないのが面倒めんどうだ。体操着から私服へと着替えを済ませ、ナリミンたちに話しかけようとしたら次の授業開始を告げるチャイムが鳴ってしまった。

 その次の休み時間に、僕らはナリミンと中野に話を切り出した。事情じじょうを全て話し、仲間になってくれるように頼んだ。

 ナリミンと中野は、二人でチームを組んでいたらしい。ちょうど、二人もチームを大きくしたいと考えていたようだ。二つ返事で、仲間になることを了承りょうしょうしてくれた。

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