第17話

 その日の夜。僕たちはヴァースのセカンドの街の前で、落ち合うことにした。

 僕は、帰宅してすぐにゲームを始めた。待ち合わせまでには、まだ十分に時間がある。僕はみんなと会う前に、アヤにあやまっておきたかった。

 さいわい、アヤはすでにヴァースにいた。僕はアヤのところへと向かう。

 チーム画面には、大雑把おおざっぱな地名しか表示されていない。たとえば、なんとかの平原やなんとかの街といったぐあいだ。

 僕はアヤのいる地域へ到着すると、アヤを探し始めた。

 どのぐらい探し回っただろう。やっとのことで僕はアヤを見つけた。一角竜いっかくりゅうはモンスターと戦っていた。

 アヤはお金を貯めることに必死のようだった。次から次へと、モンスターに戦いをいどんでいく。僕がアヤを見かけてから、声を掛けるのを戸惑とまどっている間に、数匹のモンスターを倒していた。

「アヤ、話したいことがあるんだけど」

 僕は意を決して、話しかけた。

「えっ、キョウ?どうして……」

 アヤは急に僕から声を掛けられたことに対して、戸惑っているようだった。僕はそのまま続ける。

「この前はごめん!あんなに怒ることじゃなかったのに」

「いや、私が悪かったんです……」

「タカから、聞いたよ。アイテムを返すつもりなんでしょ?」

「はい。いつになるかはわからないけど、返そうと思っています。アイテムを返したら……また、チームに入れて……もらえないですよね」

「そうだね。アヤはずっと仲間だもん。また、チームに入る必要はないよ」

「えっ?」

「僕もアイテムを返すのに、協力させてもらえないかな」

 僕はアヤの返事を待った。僕の急な申し出に戸惑っているのか、すぐに返事は返ってこなかった。しばしの沈黙ちんもくの後。

「本当に……いいんですか?」

 アヤはそれだけ言って、泣き出してしまった。女の子に泣かれたときに、なんて言葉を掛けてあげればいいんだろう。僕は声を発するのに、しばらく時間を要した。

「もう、泣かないで。僕が悪いのにアヤにつらい思いをさせちゃって、本当にごめんなさい」

「いいえ、もう大丈夫です」

 アヤがそう言った後も、しばらく泣き声は続いていた。

 アヤが泣き止むと、僕は今日の学校でのことを話した。そして、チームメンバーの追加を了承りょうしょうしてもらった。

 僕はアヤと一緒に、待ち合わせの場所へと向かった。そこには、すでに全員そろっていた。

「お待たせー!」

 僕が声を掛けると、みんなが輪を作った。一角竜が一緒なのを見て、全てを悟ってくれたらしい。

 アヤを筆頭ひっとうに各自、自己紹介をしていく。今更ながら、僕の友達とゲームで出会ったアヤが知り合うのは、不思議な感じがした。

 アキラの神獣しんじゅうは、白馬はくばだ。背中には、翼が生えている。ペガサスだ。アキラからすると、さわやか過ぎる気がする。プレイヤー名はHOKKEだ。

 コミちゃんの神獣は、巨大な鹿だった。頭はおおかみに似ている。しかし、鹿のような角が二本生えていた。タカによると麒麟きりんというらしい。プレイヤー名はTAROだった。

 ナリミンと中野の神獣は同じだった。巨人だ。正確には、レンガ――ひょっとしたら、石かもしれないが、わからない――で人の形をかたどった巨人。ゴーレムだった。二人は聞いていないのに、神獣の名前を教えてくれた。ナリミンのは、ミラージュ。中野はラインハルトというらしい。

 ゴーレムは二足歩行なので、プレイヤーは肩に乗っている。ナリミンはELF――これでエルフと読むらしい――、中野はNAKAになっている。この二人は、マニアックだ。おそらくゴーレムの名前にも、ナリミンにいたってはプレイヤー名さえ、なんらかの由来ゆらいがあるに違いない。僕は、あえてそこには触れないことにした。

 通常、オンラインゲームでは気分を盛り上げるために、現実世界げんじつせかいのことはなるべく排除はいじょする。いくら話ができるとはいえ、ゲーム中は「今日、うちのクラス宿題をかなり出されてさー」とかしないものだ。しかし、ナリミンをエルフとプレイヤー名で呼ぶことは絶対にしないと、心にちかった。

 各自の自己紹介が終わった時点で、僕は気になっていたことをアキラにぶつけた。

「アキラ、ペガサスはいいんだけどさ。」

「うん?」

「プレイヤー名のHOKKEってなに?」

「ああ、ホッケだよ」

「ホッケ?……ホッケってあの魚の?」

「そう、魚のホッケ」

 質問をして答えを得た僕の頭の中は、さらに『?』でいっぱいになった。

「なんで、ホッケ?」

「俺、ホッケが好きだから。俺がゲームで名前を付けるときは、いつもホッケにしてるんだよ」

 僕は絶句ぜっくした。好きなキャラクターの名前を付けるとかは聞いたことがあるが、好きな食べ物をゲームの名前にしている人間は初めてだ。それでいくと、カレーやハンバーグが好きな人間はどうなってしまうんだろう。カレーの攻撃、十ポイントのダメージを与えた。……意味がわからない。

 僕は、気にしないことにした。プレイヤー名で呼ばなければいい話だ。……人のいる前では、あえてホッケと呼んでやろう。

 僕の疑問ぎもん解消かいしょうされると、みんなで話し合った。作戦を立てるのだ。普通にやっても、アイテム代の二百万もの資金を貯めるのは、相当時間が掛かる。

 しかし、あまりいい作戦は立たなかった。みんなで手分けしてお金を貯める。結局のところ、これが一番確実かくじつだった。それとは別に、みんなの中でいらないアイテムを売ることにした。

 街にたくさんあった、フリーマーケットのようなあの店を、僕らでも出す。それに関しては、みんながやりたがったので、交替で店番をすることにした。

 チーム名も変えることにした。ナリミンたちのチーム名は『スレイヤーズ』だった。それを残しつつ、僕らのドラゴンバスターと合わせて、『ドラゴンスレイヤー』にすることに決めた。

 エンブレムも新しく作成する。作るのは僕だ。ナリミンたち、スレイヤーズのエンブレムはサンプルをそのまま使っていた。僕しか、エンブレムを作成したことがなかったからだ。

 僕はみんなと一緒にモンスターを倒す合間に、新しいエンブレムを作った。基本的には前のエンブレムと変わらない。盾のシルエットを変更しただけだ。以前は、グリフォンの尻尾しっぽを魚にしたシルエットだった。今回は、頭がわしで、額には一本の角。翼があり、太い巨人のような腕。体と後ろ足は鹿。そして、尻尾は鮫というシルエットに変更した。

 以前と違い、神獣の数が増えたのでかなり複雑になった。作成は困難こんなんきわめた。しかし、苦労し時間を掛けた分、自分では満足のいくエンブレムができた。

 そうして、少しずつだが確実に、資金は貯まっていった。

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