第14話

 グリフィンを進化させてから数日。僕らは、レベルをあげることに夢中だった。進化させるとレベルは一に戻ってしまうからだ。ただ、初心者とは違うため、初心者マークも付かない。それにチームも組んだままいることができた。

 ただ、この数日気がかりなことが一つあった。アヤが姿を見せないのだ。忙しいのだろうか。早く進化したグリフィンを見せたかったのだが。

 僕はアヤにメールを出すことにした。街にはポストが設置されている。メールを作成しポストに投函とうかんすると、そのプレイヤーがゲームを再開したときに送られる仕組みになっていた。

 メールはメール画面で作成する。サンポウドーPSの下画面にキーボードが表示され、それを押すことでメールを作成できる。作成したメールはアイテムとして扱われ、それをポストに入れるわけだ。送信相手がオンラインの場合は、すぐにメールが届く。そのため、誕生日のお祝いメール等で使用されていた。

 僕はメールに、グリフォンが進化したことと、また一緒にレベル上げをしたいと書いた。そして、メールをポストへ投函した。

 最近では、メールで決闘の申込みをするのが流行していた。メールで『果たし状』を書いて、相手に送るのだ。強いプレイヤーは、果たし状が途切れることがないらしい。

 強いプレイヤーはカリスマと化し、有名人のように扱われていた。出会っただけで嬉しいというプレイヤーさえいるほどだ。一部のカリスマプレイヤーは、PKプレイヤーキラーをおこなうことであえて悪役を演じゲームに、よりスリルをもたらしていた。

 独眼龍どくがんりゅうもカリスマプレイヤーとして、有名になっていた。そのカリスマぶりは、他のプレイヤーを圧倒あっとうしていた。

 レアな神獣しんじゅうだから、というだけではない。チームを組まず、単独だからだ。このゲームはチームを組んだ方が、なにかと便利だ。アイテムの受け渡しも可能だし、チーム専用のクエストもある。一匹狼いっぴきおおかみであれだけの強さをほこっているのが、独眼龍が他のプレイヤーから一目置かれる理由だった。僕は独眼龍の噂を耳にするたび、自分との力の差が、より開いている気がしていた。

 最近ではPKも、より高度化していた。プレイヤー同士で戦うが、その規模が大きくなり、チーム対チームという戦いに発展はってんしていることもあった。

 チーム戦は、すさまじかった。幾度いくども幾度も雷が落ち、風が吹き荒れ、嵐のようになった。空からは燃える石が降りそそぎ、草原に大津波おおつなみが押し寄せた。地面が割れ、そこからマグマが噴き出すことさえあった。まるで天変地異てんぺんちいだ。この世の終わりがやってきたかのような様相ようそうていしていた。

 有名なチーム同士が戦う時は、他のプレイヤーにもその時間と場所が提示ていじされ、ギャラリーが押し寄せた。しかし、それによりギャラリーが、戦いに巻き込まれるといったこともしばしば起こっていた。

「そろそろ、チームメンバーを増やした方がいいのかねえ」

 僕らはかなり離れた位置で、チーム戦をながめていた。

「かもしれないな。でも、あれ以来そんな申し出もないしなあ」

 そのまま、しばしの沈黙ちんもくがあった。僕らの間にこんな気まずい空気が流れるのは、初めてのことだった。

 その時、沈黙をかき消すかのように、声が聞こえた。

「お久しぶりでーす。そっちへ行ってもいいですか?」

 声の主はアヤだった。近くにいるらしい。僕らは合流することにした。

 合流した途端とたん、僕は絶句ぜっくした。神獣がユニコーンではなくなっている。アヤの神獣はドラゴンに変わっていた。

 それを見た瞬間しゅんかんから、僕の中でなにかがくすぶり始めた。

 それは巨大なトカゲだった。前足は短く、足というよりはうでといった印象を受ける。細かい作業もこなせそうだ。その分、後ろ足はがっしりとしていて、二足歩行が可能らしい。常に立っているような姿勢しせいをとっていた。頭から背中にかけては、ふぞろいなのこぎりの刃のようなたてがみが二本走っている。背中にはこうもりのような翼が生えていた。

 そして、そのドラゴンの最大の特徴は、ひたいに生えている一本の角だ。その角だけ見ると、ユニコーンのようだった。

一角竜いっかくりゅうだ」

 タカがそう教えてくれた。アヤはこの数日の経緯けいいを話し始めた。

 この数日間、どうしても僕らがいる夕方以降に、ゲームをすることができなかった。少しでもレベルを上げようと、朝のわずかな時間だけこの世界に来ていたそうだ。

 この世界は、時間帯によってプレイヤーががらりと変わる。タカがゲーム雑誌で読んだ情報だが、朝は社会人が多い。昼間はフリーターなど。夕方は学生で、夜はバラバラだが、一番プレイヤーの数が多くなる時間帯らしい。

 そうすること数日。いつものように、この世界に来るとメールが届く。メールの宛名あてなは、まったく知らない人だった。内容は、アヤに話があると。

 不信ふしんに思いながらもメールに指定された場所に行くと、一人のプレイヤーが待っていた。神獣は黒いドラゴンだった。その隣にもドラゴンが、一体たたずんでいた。その男は、アヤのファンであるといい、自分のチームに入ってほしいと頼まれた。それを断ると、ならそっちのチームに入れて欲しいと。それも、アヤの独断どくだんで決められないからと断った。

 すると、せめてアイテムをもらって欲しいと言い出した。『マリオネット』と『対の灰色ダイヤ』というアイテムだった。それを受け取ると、そばにいるドラゴンと合体進化がったいしんかすることができるらしかった。

 なんども断っているので、もう断りづらかった。そこで、そのアイテムをもらいユニコーンとドラゴンを合体させたのだった。

 話を聞いていくうちに、僕の中でくすぶっていたなにかが大きくなっていた。話が終わった時には、完全に炎となり僕の中で燃えさかっていた。

「それで、ドラゴンに?チーム名がドラゴンバスターなのに、ドラゴンかよ!」

 もう自分の中で、炎が抑えきれなくなっていた。進化した神獣は元に戻すことはできない。

「あ、あの……」

「じゃあ、他のチームに入れば?ドラゴンバスターからは脱退だったいしろよ!」

 僕はそれだけ言うと、ゲームを終えた。そして、しばらくはゲームを再開させなかった。

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