第13話

 八本の塔の前には、誰もいなかった。どうやら、タカはまだ池にいるようだ。チーム画面で確認しても、居場所は『進化の池』になっていた。

 僕はその場で、タカを待つことにした。待っている間に進化の書(火)を確認する。アイテム画面では、燃えさかる炎のような攻撃をさずけると説明があった。

 しばらくすると、TAKAがやってきた。

「キョウ、お待たせー!」

 TAKAの下にいるのは、すでに人面魚じんめんぎょではなかった。巨大なさめだった。人間の五倍はあるだろうか。人面魚とサイズ的には変わらない。だが、口からのぞく鋭い歯が、獰猛どうもうさを物語っていた。そして、頭には人の顔のような模様もようがあった。

「……タカ、それって?」

「おうっ!進化したんだよ」

 タカの声ははずんでいた。進化したことが嬉しくて仕方ないといった感じだった。

「……うん、それは見てわかった。けど、その神獣しんじゅうはなに?」

「なにって。見て分からない?人面鮫じんめんざめだよ」

「……人面鮫」

 タカはずっと人面の呪縛じゅばくから抜け出せないのだろうか。本人が喜んでいるならそれで構わないが。

「人面魚は分かるにしても、人面鮫なんて聞いたことないけど。神獣って、伝説の生物がモチーフじゃなかったっけ?」

「基本はそうだけど、このゲームオリジナルだっているさ」

 人面鮫はほんのわずかだが宙に浮いている。時折、風にでも揺れるかのように体を揺らしていた。

「キョウは進化の書取れなかった?」

「いや、取れたよ」

「じゃ、なんで進化させてないんだよ。俺なんか手に入れた三秒後には進化させてたぜ」

 タカは必要以上に情報を集めるくせに、そういうところは大雑把おおざっぱだ。

「……お前、もらったプレゼントはその場で開けるタイプだろ」

「おうっ!普通、そうじゃん」

「俺は家に帰って、一人でゆっくり開けるタイプなんだよ!」

「……分かったから、グリフォンを進化させようぜ」

「……うん。進化の書を使えばいいの?」

「あぁ。ただし、一度進化させたら元には戻せないからな」

「分かった、それは大丈夫」

 僕はアイテム画面から、進化の書を選択した。

 突然、グリフィンが咆哮ほうこうを始めた。すると、グリフィンの体の中から光が漏れ始める。始めは咆哮している口から。次は目。前足にひびでも入ったかのように、光が漏れる。胴体、後ろ足、翼、全てに光のひびが走った。そして光は体中に広がっていった。グリフィンを構成している体の全てから光を放っている。光は徐々に強くなる。そして、それは最高潮さいこうちょうたっした。画面が光で覆われて、全てのものが見えなくなった。

 真っ白な画面の中央に、赤い点が現れた。それは徐々に大きくなっていく。それは炎だった。画面の中央で、炎が燃えていた。

 画面を覆っていた光が、徐々に弱まってきた。光の範囲も縮小を始めた。周りの風景も、確認できるようになってきた。そして、光は炎と一緒に、グリフィンの体の中へと吸い込まれていった。

 どうやら、これで進化終了らしい。グリフィンを見ると、体が変化していた。グリフォンの体はそのままだが、前足や、胴体、後ろ足、翼に赤と黄色い模様が入っている。模様は炎のようだった。まるで、体全体が燃えているかのように見える。

 グリフォンは、胴体以降がライオンだ。尻尾も当然ライオンのものだった。細長い尻尾の先は、毛玉のようになっている。その毛玉は、いまや火の玉のように変化していた。

「なんか、見た目はそんなに変わらないな」

 進化が完了したグリフィンを見て、タカが感想を述べた。確かに人面鮫と違い、劇的げきてきな変化はない。だが、僕は進化したグリフィンが気に入った。

 グリフィンを誰よりも強くしてやる。僕は心の中でそうちかったのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る