第9話

 それから、数日。僕はいくつかのクエストをこなし、順調にグリフィンのレベルを上げていった。レベルが上がったときにもらえるポイントは、攻撃力を中心に振り分けていった。それについては、タカと小さい衝突しょうとつがあった。

 グリフィンがモンスターにあたえるダメージが、早々はやばや人面魚じんめんぎょを越えたのだ。

「タカ、人面魚はそんなに攻撃力が低いもんなの?」

「もともと人面魚はサポートタイプだから、仲間の体力を回復したり、攻撃を補助するスキルが多いんだよね。それに……」

「それに?」

「俺、人面魚の攻撃力上げてないもん」

「えっ、なんで?」

 僕はタカの言葉が信じられなかった。本当に攻撃力は、レベル一と変わらないのだろうか。

「防御力を中心に上げてるからさ。防御こそ最大の攻撃って言うだろ?」

「いいや、攻撃こそ最大の防御だね!」

 それについては、二人とも正反対の意見だった。性格上の問題かもしれない。僕の好きな言葉は一撃必殺いちげきひっさつだ。ちまちまと攻撃するのは好きじゃない。

 ビースト・オブ・ザ・ゴッドを始めてから、四日目にして念願ねんがんのレベル二十になった。僕は早速、タカとチームを組んだ。

 チームを組むとチーム名を決められた。僕らはチーム名を『ドラゴンバスター』に決めた。これは僕の独断どくだんだったが、タカは了承してくれた。チームにドラゴンがいないこともあったが、いつの日か独眼龍どくがんりゅうと戦いたい。そして、倒したいという思いがあったからだ。

 チームのエンブレムも僕が作成した。エンブレムはステッカーのようなものだ。神獣しんじゅうの好きな部分に付けることができる。取り外しも自由だった。エンブレムは自分で描くこともできるし、サンプル画像を使用することもできた。

 今までにいろいろな神獣とすれ違ったが、みな思い思いのエンブレムを付けていた。中でも中世の剣や盾、かぶとなどのデザインが多かった。そのほか、漢字一文字やドクロなどの海賊旗かいぞくきのようなもの、ハートなどを見かけた。

 チームで同じエンブレムを付ける必要はなかったが、一般的に同じチームでは同じエンブレムを付けることが多かった。

 僕はサンプルの中にあった、盾の後ろに剣があるデザインのエンブレムを使用して、ドラゴンバスターのエンブレムを作成した。盾には頭と翼、前足がわしで、下半身がライオン。そして、尻尾はこいという生物のシルエットを描いた。ひとことで言えば、グリフォンの尻尾を魚にしただけなのだが。なれていなかったせいかエンブレムを作成するのに、たっぷり二時間は掛かった。

 僕はエンブレムをグリフィンの左前足の付け根につけた。人間でいうと肩の部分だろうか。タカはエンブレムを左側の尻尾の側へつけた。

 作成したエンブレムは、ゲーム内で手渡ししなければならないらしい。これで、エンブレムの偽造ぎぞう抑制よくせいしているのだ。簡単なデザインのエンブレムだと、見ただけで偽造されそうな気もするが。

 チームを組む利点は、それだけではなかった。ゲームをしているメンバーの現在地が、わかるようになる。そして、メンバー同士なら離れていても会話が可能だった。今まではタカと時間を決めて、待ち合わせをしていた。これからはその必要がなくなるのだ。

 チームを組んでからはこの世界での冒険が、より楽しくなった。チームでなくては受けられないクエストもあったからだ。 

 僕のレベルが二十五を超えたあたりから、初心者狩り退治をするようになった。正式には初心者狩り狩りというらしい。どうやら、その初心者狩り狩りをメインでしているプレイヤーもいるようだった。

 初心者狩り狩りをする際に、自分たちの中であるルールを作った。初心者狩りをしているプレイヤーを倒しても、落としたアイテムとお金は拾わないということだ。ただの偽善ぎぜんかもしれないが、アイテムを拾ったら初心者狩りと変わらない気がしたのだ。初心者狩りから見たら、初心者狩りを攻撃することすら偽善と思われるかも知れないが。

 当然、初心者狩りをしているプレイヤーの中には、僕らでは全く太刀打ちできないほどの力を持ったものもいた。そういうときは、こっちに注意を向けている間に初心者を逃がすようにしていた。初心者が逃げたのを確認すると、こっちも全力で逃げる。街には神獣は入ることはできない。しばらく街で、ほとぼりが冷めるのを待つ。大抵はそれであきらめるようで、いつの間にか初心者狩りは姿を消すのだった。

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