第7話

 やっとのことで、街にたどり着いた。街は活気かっきあふれていた。大勢の人間で、ごった返している。まるで、真夏の海岸のようだ。見渡す限り、人、人、人。建物もある。当然、中に人がいるだろうから、実際には相当の数の人間がここにいることになる。

 街へ向かう途中、タカが先ほどの二組について知っていることを教えてくれた。

 三体のドラゴンの肩に付いていた『KQ』はエンブレムだった。チームで同じエンブレムを付けることで、仲間意識を高めるわけだ。『KQ』はキラークイーンというチームのエンブレムなのだ。キラークイーンは大所帯おおじょたいで、比較的有名なチームらしい。彼らの中の王であるドラゴンのために、他の神獣しんじゅうを根絶やしにするのが目的だが、今までは初心者狩りをするようなことはなかったようだ。

 一方の独眼龍どくがんりゅうは、神獣の中でもかなりレアな存在らしい。タカも初めて見たそうだ。短時間で、試練の洞窟内の全てのモンスターを倒すと相棒になれる――という噂なのだとか。実際には、まだわからないらしい。

 この街ファーストには、いろいろな店がそろっているようだった。神獣の体力を回復する薬等を売っている、道具屋。神獣が装備できる武器を売っている、武器屋。アイテムを預かってくれる、預かり屋。そして、銀行まで存在していた。

 道ばたに座りこんでいる人たちは、自分が持っている道具や武器を売っているらしい。地面に布を敷き、その上に座っている。頭上には布で作った看板のようなものが出ている。そこには思い思いの内容が書き込まれていた。『ドラゴンの爪あります』、『回復薬いろいろ』、『レアアイテム?』、『進化の書(光)』、『ペガサスのひづめ』などなど――。まさに、ゲームの中でのフリーマーケットだ。

 フリーマーケットで足を止めた僕に、タカが教えてくれた。

「ここは最初の街だから、武器とかを買うならお店に入った方がいいよ。プレイヤーの店は値段が高すぎたりするからさ。それにレベルによっては装備できないものがあるからね」

 あるプレイヤーの店の品物を見てみたが、確かに注意書きにレベルの制限が書いてある。『大地の剣』――ドラゴンウォリアー専用――レベル三十五以上。

「これって、当然グリフォン用の武器もあるんだよね?」

「当たり前だろ。グリフォン用も人面魚じんめんぎょ用もあるよ!人面魚はいいぞー。みんな人面魚用の武器を持ってても使わないから、値段が安くてさ」

 なるほど、レアな神獣にはそういった利点もあるわけだ。

「そういえば、神獣は?」

 街の中には人しか存在していない。神獣の姿は見えない。ただの一体もだ。そして、僕の相棒グリフィンも街に入った途端とたん、姿を消していた。

「今ごろ?街に入ってから、だいぶたってるけど……。神獣は街の中には入れないんだよ。街にはそういう魔法がかかってるんだ」

「なんでよ」

「さあ。でかいからじゃないの?それか、街中まちなかでPKされないようにかな?」

「じゃあ、僕のグリフォンはどこにいったのさ」

「アイテム画面の重要アイテムを開いてみなよ。そこに魔石があるでしょ。赤いやつ。その中にいるんだよ」

 言われた通りに画面を見てみると、赤い石の中にグリフォンがたたずんでいるのが見えた。サイズはだいぶ小さくなっているが。

「本当だ。でも、こんなアイテム持ってなかったよ?」

試練しれん洞窟どうくつで神獣を手に入れたときに、強制的に手に入るんだよ」

 それでは、街にいるプレイヤーはみんなこの赤い石を持っているということか。タカの石の中には人面魚が浮かんでいるはずだ。それを想像すると、ちょっと気持ちが悪かった。

「さて、俺はそろそろ落ちるからさ」

「落ちる?」

「ゲームを終わりにするってことだよ。キョウはまだやってるか?」

「うーん。どうしよっかな」

「続けるなら、街にいるNPCに片っ端から話を聞いてきたほうがいいよ」

「NPCって?」

「ノンプレイヤーキャラだよ。コンピュータが操作してる人ってこと。最初の街だから、この世界についていろいろ教えてくれるからさ。戦闘についてもね」

「なるほどね。で、どれがNPCなの?」

「頭の名前が緑のキャラは、NPCだから。じゃ、俺は風呂入らなきゃだからさ」

 この世界で風呂とか言うな、興醒きょうざめしてしまうじゃないか。僕は思いながら、部屋の壁掛け時計を見た。もう十時近い。僕も風呂に入らなくては。

「ちょっと待って!ゲームを終わりにするってどうするの?」

「下画面で、ゲーム終了を押すだけだよ。じゃ、分からないことは明日学校で聞いてくれよ」

 言い終わると同時に、TAKAの周りを光が包み込む。そして、光とともに上空へと吸い込まれていった。

 その場に取り残された僕は、一人で街をまわることにした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る