第六部「あれって実は勝てたんじゃ……」
「何でオレ、こんなとこでこんな格好してんの?」
召喚された青年自身も自分の状況がよく分からないらしく、辺りを見回している。と、近くにいた
「あれ?
いつの間にか、朱里は振り上げていた手を下ろし、攻撃を中断していた。
「朱里! 早くその男をやっつけろ! 強力な能力を持っているかもしれないだろ!」
「てあれ? あそこにいるのって
翔平は朱里に向かって叫び声を上げるが、朱里は何故か青年を見つめたまま動かない。
「お……」
「お?」
「王子さまーーーーーー!!!」
「「「「えぇーーーーー!?」」」」
金髪鬼以外の全員の声が重なる。朱里は突然目の前に現れた憧れの王子様に口をパクパクさせている。
「(あたしが大好きな本の理想の王子様そのままだわ!)」
顔も、髪型も、格好も、すべてが朱里の理想を捉えている。朱里はこれが鬼の作戦ということに気づかず、ひたすら王子に目を奪われている。
「さて、王子様。ちょっと朱里を褒めてあげてもらえます?」
「は? あんた誰……陽ノ下、サル姿のお前も最高にキュートだぜ」
「ふぇ!?」
青年は自分の意思とは無関係に、言葉を紡ぎだす。打出の小槌で召喚された者は、召喚者に服従なのだ!
青年の言葉にみるみる顔を赤くし、目を渦巻きのようにぐるぐると回す朱里。
「さて、トドメと行きましょうか。王子様、朱里に口づけをなさってもらえますか?」
「何でそんなこと! むぐぐぐ……」
青年の足が勝手に動き、朱里に近づいていく。朱里はアワワワワと近づいてくる青年に動揺しまくるのみ。そして、
青年の唇が朱里のおでこに触れた!
「ひゃひぃぃぃぃぃぃぃぃ」
おでこに口づけをされた朱里は、そのまま興奮のあまり地面に倒れた。
「朱里ーーーーーー!!」
翔平は大声で朱里の名前を叫ぶが朱里が起き上がることはない。鬼はその様子を見て、ニヤニヤ笑っています。
「ふふっ、ご苦労様でした、王子様。もう結構ですよ」
「おい! てめぇふざけん……」
ボンッ
再び煙をあげて、青年の姿は消えた。戦闘不能になった朱里と金髪鬼だけが煙の周りにいました。
「これで、三対一ですわね」
「朱里ちゃんがあんなにあっけなくやられるなんて! 強い!」
「あれって、実は勝てたんじゃ……」
「強すぎる! 流石は鬼ヶ島の金髪鬼!!」
翔平の主張は家来二匹によって遮られます。なんだか納得いかない翔平ですが、敵が強敵なのは事実! 気持ちを集中させます。
「翔平くん、ミドちゃん。一人で向かうと朱里さんの二の舞になる。ここは三方向から同時に叩こう」
「分かったわ!」
「よし」
そう言って、
「う~ん。やっぱりまだ人数多いですわね。それでは次は桃果さん、あなたを無力化しましょうか」
「どうやってするつもりなのかな? そう簡単には……」
と、桃果がそこまで言うや否や、桃果の方に向かってきていた鬼は桃果にしか聞こえないくらいの声で囁いた。
「桃太郎さんを好きなこと、ばらしちゃいますよ?」
「え!?」
動揺した桃果の横を金髪鬼は見事にくぐり抜け、桃太郎一行の三方向からの攻撃は失敗に終わる。
「どうしたの、
「だ、大丈夫だよ! ちょっと動揺しちゃっただけだよ! 次は上手くやるから!」
「あらあら。できますかね~。桃果さん、そこの岸壁に頭をぶつけてきてもらえますか? さもないと……ですわよ?」
「そんな安い挑発に乗るもんですか! 行くよ! 二人とも!」
「「了解!」」
そうしてまた鬼に向かって突撃する三人。鬼の脅しになんて屈するものですか! 桃果は強い信念を持って、鬼に正面から向かいます。
「そうですか。それは残念ですわね~。では……」
金髪鬼は翔平の方を向いて大声を上げ始める。
「桃太郎さ~ん! 実はですね! 桃果さんの好きな人っていうのは~……」
「ワオーーーーーン!!」
やっぱダメーーー! 顔を真っ赤に染めながら、桃果は近くにそびえ立っていた岩に頭を打ち付けて自爆しました。
「キューン」
「「えぇーーーー!?」」
その様子を見ていた翔平と翠は突然の桃果の奇行に驚くあまり、攻撃を中断しました。金髪の鬼は相変わらずニコニコと笑っています。二人は彼女が鬼ではなくて悪魔のように見えました。
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