第五部「鬼ヶ島の金髪鬼」

「ようやく着いたな……」


 ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ


 鬼ヶ島に続く橋を渡り終えた一行。荒れ狂う海、乱れる天候の中、そうした効果音が聞こえてきそうな禍々しさで鬼ヶ島は存在していた。


 翔平しょうへいはその凄さに圧倒され、それ以上続く言葉を失い、固唾を飲み込むしかなかった。



「犬なんて吠えるだけで何もできないじゃない! いざという時頼りになるのは鳥類よ! 制空権持ちの鳥類に勝てるものはいないわ!」

「人間の役に立てるのは同じ哺乳類の犬だよ! 実際、人間との同居率は鳥より圧倒的に高いんだから! 地上で暮らす人間の危機に迅速に対処できる戦闘力を備えているのは犬だよ!」

「ちょっとあなたたち! 言い争いはやめなさいよ!」


 みどり桃果とうかはここが鬼ヶ島ということもお構いなしに、どちらが頼りになるか言い争う。それを人型に変化へんげしたサル、朱里しゅりが止めようとしているが、耳に届いていないのか、完全にスルーされている。


「言ったわね! だったらキジの強さを見せてあげるわよ! ケンケーン!」

「望むところよ! ワオーン!」


 そう言って二匹は人型を解除し、お互い動物型に変化した。


「我が必殺の奥義、高速神鳥ごっどばーどを食らっても同じことがいえるかしら!」

「そんなもの、わたしの超衝撃突進ぎがいんぱくとで返り討ちにしてあげる!」

「雰囲気ぶち壊しなんですけど!! ここが鬼ヶ島ってこと意識してくれません!?」


 必殺の一撃を放とうとする二匹に向き直り、涙目でそう訴える翔平。心なしか、旅に出た時よりやつれている。


「あなた、大変なのね……」

「うぅ。こんなの家来じゃない……」


 朱里はげんなりして翔平に同情する。最初は反発していた朱里だったが、この旅の中で翔平に同情を抱くほどの心変わりを見せていた。それほどに、翔平の苦労は凄まじかったのだ。


「ここはもう敵地なんですから、ミド姉もモモも緊張感持ってくださいよ」

「「はぁ~い」」


 不本意そうな声を出す二匹。目的地に到着したのにこの反応とか……。マジで別のキジとイヌにすれば良かった! 翔平の後悔は今や最高潮に達していました。


「さて、鬼はどこにいるんだ?」

「翔平! あれを見て!」

「ふふふ。よくここまで来ましたわね」


 朱里が指差した方向を見ると、確かにそこには人の形をしたシルエットがありました。シルエットは段々と大きくなり、やがて、その姿を現します。人間と同等の骨格を持つ人型の生物で、その鬼は見る者を魅了する美しい金髪を携えた女性でした。


「出たわね! お姉さま……、じゃなくて金髪鬼!」

「え? 今お前、お姉さまって言ったの? 何で? 何でサルの姉が鬼?」


 朱里は翔平の疑問をスルーしてぐぬぬと金髪鬼に向かい合います。


「ようやくここまで来たわ! あなたの悪行もここまでよ! 覚悟なさい、緋陽里ひより!」

「え!? ミド姉までなんで鬼の名前知ってるの!? 友達!? 友達なの!?」


 翠はそれまでとは一変して、ラストバトルにふさわしい態度で金髪の鬼に立ちはだかる。もちろん、翔平の疑問は耳に入ってこない。


「金髪の鬼さん! そちらは一人でこちらは四人! 圧倒的にわたしたちが有利ですよ!」

「ふふふ。確かにその通りですわね。それでは、悪いですけど戦力を増強させていただきますわ」

 桃果がそうやって金髪の鬼に対して強気に出ていると、鬼は不敵な笑みを浮かべた。ジリっと何が起きても対処できるよう、翔平たち全員は足に力を入れて鬼の行動を待った。


 鬼はどこからともなく小槌を取り出し、一回だけ振った。するとたちまち、鬼の隣が煙で覆われた。


「何だ!?」

「これは、『打出の小槌』といいまして、使用者が望むモノ・人を召喚することができる道具ですわ」

「それで、あなたの武器を召喚しようというわけね? それならそれが召喚される前にあたしの引っかきで!」

「おい! 無謀だ!」


 朱里は先手必勝とばかりに翔平の制止も聞かずに十数メートル先の鬼へ走り出す。


「あらあら。相手が悪かったわねぇ。朱里」

「どういうことよ!」

「あなたじゃなかったら、この打出の小槌も意味をなさなかったのに」

「?」


 朱里は鬼の言っている意味が分からなかったが、怯まずに突進を続ける。次第に煙が晴れ、人型のシルエットが浮かび上がる。

 しめた! 召喚するのが人なら、状況を悟られないうちに攻撃してしまえば戦闘不能にできる! そう思った朱里は、向かう方向を煙に変え、動物型に変化へんげして爪の準備をする。


 朱里が爪を振り上げると、煙が晴れ、召喚された者が姿を現した。


「あ? ここはどこだ?」

「!?」


 中から現れたのは、整った顔立ちをした髪色の明るい青年だった。その青年は、白の軍服、黒のスーツパンツ、背中には赤のマントをつけ、西方の国にいそうな王子のような格好をしていた。

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