第七部「決着とエピローグ」

「これで残るは二人だけですわね」


 金髪鬼は鬼の左にいる翔平しょうへいの方へ歩き始めたかと思うと、いつの間にか翔平の横に移動してきていました。


「(早い!?)」

「翔ちゃん、危ない!」


 やられる! 翔平はそう思ったが、意外なことに鬼は翔平の腕に自分の腕を絡ませてきました。


「ふふっ。桃太郎さん……いえ、翔ちゃん。本当に可愛いですわ」

「え!? ちょっと!?」

「なっ……!!」


 翔平とは反対側に位置していたみどりはそれを見て、唖然としています。


「ちょっと、何してるんですか!」

「どうです? 翠なんて姉に向いてないでしょう? わたくしが翔ちゃんのお姉さまになってあげますわよ?」

「お姉さまって! 密着しすぎですよ!」

「嫉妬深いキジなんかより、元々人型のわたくしの方が、翔ちゃんのお姉さんに適していると思いますけど?」


 翔平の腕に金髪鬼のたわわな胸が当たる。ハァ、最高! 何この感触! 大きくて柔らかすぎーー! 

 って、違う違う! これは鬼の作戦! 色仕掛けで俺を落とすなんて、考えが甘い! 今の俺は姉耐性が付いているんだから!


「ちょっと緋陽里ひよりーーー! 人の弟に何やってるのよー!」

「ダメダメな姉に代わって、わたくしが翔ちゃんのお姉さまになってあげようかと思いまして……」

「ダメダメじゃないわよ! 私は翔ちゃんの頼りになるお姉ちゃんよ!」


 どの口がそれを言うんだ……。一瞬そう思ってしまった翔平。一応心の中で謝罪しておこう。


「あら? イヌと姉争いを繰り広げる嫉妬深いキジさんのどこが姉らしいと? 姉たるもの、常に堂々と凛々しくいなければならないのでは?」

「そ、そんなことないわよ! 私の翔ちゃんへの愛情はそこらの姉とは格が違うんだから!」


 愛情あるならもう少し俺のこと考えて欲しいなぁ。今までの旅の出来事を思い出し、白い目で地面を見つめる翔平。


「そんなことより、何であなたは都の物品を奪ったりしていたんですか? 鬼ヶ島は大きい島なんですから、モノには困らないはずでしょう?」

「それはですね……」


 翔平は話を鬼の窃盗事件についてシフトした。金髪の鬼は、不敵な笑みを見せると、衝撃の回答を繰り出した。


「わたくし、可愛いものに目がないんですわ!」

「……はい?」

「都には鬼ヶ島で手に入らない動物の写真集などがありますよね? それを手に入れていたんです。ついでにゆるキャラとかのストラップも工場出荷前に全部強奪しましたわ」


 今いち緊張感に欠ける回答だった。てか、盗まれたのって作物とかお宝とかそういうのじゃないんかい! ぶっちゃけ大した被害ないじゃん!

 翔平は心の中でつっこみました。商人にとっては大損害とは分かっていながらも、鬼退治のモチベーションが下がる翔平でした。


「今度は、何を集めようかしら。でもまずは、そこの愚かにも姉を名乗るキジから、可愛らしい弟を奪ってから考えましょうかね」

「翔ちゃんはあなたに絶対渡さないわ! これでも喰らいなさい!」


 翠は、どこからともなく一冊の本を取り出し、鬼と翔平の横に投げた。鬼は投げられた本のタイトルを見て、目の色を変えた。


「そ、それは!! わたくしが探しても手に入らなかった全国のゆるキャラの情報を一冊にまとめ上げた、『全国ゆるキャラ大辞典初版3280円』!」

ももちゃんのものひろいスキルがこんなところで役に立つとは思わなかったわ!」


 鬼は翔平から手を放し、ゆるキャラ大辞典に向かって走り出す。それと同時に、翠は大気からエネルギーを吸収!


『みどりを はげしい ひかりが つつむ!』


「ハァーー! 夢にまで見た『ゆるキャラ大辞典』ですわ! ハッ!!」

「喰らいなさい! 高速神鳥ごっどばーど!!」

「やぁぁーーーーん!」


 翠の一撃により、金髪の鬼は倒されました。翠は人型に変化し、翔平の隣にスタッと降り立つと、腕を絡めて負けじと姉アピールをする。


「どう!? 私だって役に立ったでしょ? 頼りになったでしょ!?」

「そうですね。今回はミド姉の功績が一番大きいです」

「ふふっ。そうでしょ! 私、頼りになるお姉ちゃんですからね!」


 翔平はやれやれといった調子で嘆息すると、一番の功労者である家来に労いの言葉をかけた。


「本当にミド姉は頼りになる『お姉ちゃん』ですよ! 見直しました!」


 この後、翠が再び吐血したことは言うまでもなかった。


 *


 鬼退治を終えた翔平は、お供に連れた三匹の家来と共に家で祝賀会を開いた。


「最後に鬼を仕留めたのは私なんだから、翔ちゃんにアーンをするのは私よ桃ちゃん! その手を放しなさい!」

「ひとまず姉の座は譲るけど、それは譲れないよ! 大体、わたしの拾ってきた本がなければ倒すことはできなかったんだからね! ここはわたしが翔平くんにアーンをするのよ!」

「お付き合いもしていない女性にアーンさせるなんてあたしが許さないわ! あなたたちもうちょっと自重しなさい!」

「そう言って朱里ちゃんも隙を伺おうって魂胆なのね!? 朱里ちゃんじゃ翔ちゃんのお姉ちゃんにはなれないのよ! 年齢的に!」

「べ、別にそんなんじゃないわよーー! 何見てんのよ翔平! この変態!」

「ぐはっ! 別に何も変態な要素ないだろ! ふざけんなお前!」

「目つきがいやらしいのよ! 美女二人にアーンしてもらえるからってニヤニヤしてんじゃないわよ!」

「ニヤニヤしてないわーーー!」

「さぁ、翔平くん! これ食べて! 桜井農園で採れたブランド桃『桃果とうか』だよ! これをわたしだと思って、さぁ! あ~ん!」

「ちょっとずるい桃ちゃん! それはお姉ちゃんの特権なんだから!」




 ……はぁ。俺と彼女たちの関係は桃太郎と家来なはず……だよね?


 ハーレムなのは嬉しいことなんだけど、二人ともちょっと姉主張が強すぎてついていけないっす。姉っていうなら、もうちょい弟の苦労を考えてくれないかな~?


 それでも、内心そこまで嫌な気分ではない翔平なのでした。めでたしめでたし。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る