第三部「果樹園にて」
「ふふっ、
「あの、ミド姉。くっつきすぎなんですけど。羽があるんだから飛んでくださいよ……」
「違うよ~。羽やすめだよ~。私、鳥ですから。キジですから!」
「何で二回言ったんです?」
羽やすめと言いつつ、人型に
「翔ちゃんに触れる度に私のお肌もツヤツヤになっていく……」
「あなた、キジですよね……? ツヤツヤも何も本来は長い体毛に覆われているんじゃ……」
「鳥肌立つほど、お肌すべすべーーーー!!」
「矛盾してない!?」
鳥肌のブツブツをすべすべとのたまうキジのハイテンションについていけない翔平。偵察とかしてくんないかな~……。
またしばらく歩いていると、大きな果樹が広がる山道に差し掛かりました。その果樹を横に見ながら歩いていると、看板が立てかけられています。
『桜井農園 果樹エリア』
どうやらここは、桜井農園が管理する果樹園のようだ。特に気にも留めずに歩いていると、人相の悪いおじいさんと一匹のイヌに出くわしました。
「さっさとここを掘らんか!」
「うぅ。ココ掘れわんわん。ココ掘れわんわん」
イヌが掘り起こしたその穴から出てきたのは、小さな骨だけでした。それにおじいさんは激怒。
「またか! このダメ犬が! さっさと埋蔵金の場所を掘り当てろと言っているのに!」
「そんなの分かるわけないです! 埋蔵金は匂いがしないですもの」
「えぇい! 言い訳など聞きたくないわ! またお仕置きが必要みたいだなー!」
「ひぃ! 叩かないでください!」
そう言って、持っていた大根でイヌを殴ろうとするおじいさん。これはいけない! そう思った翔平は、バッとおじいさんの前に立ちはだかり、大根を両手でつかみます。
「むっ! 何じゃお前は!」
「こんなもので叩いたら痛いじゃないですか! ミド姉!」
「ケンケーン!」
「いたた! いたたたた!」
翠は動物型に
「覚えていろよ! 十四歳がーー」
「誰が十四歳だこらーーー!!! 俺は二十歳だーーーー!!」
おじいさんの捨て台詞に憤慨するが、おじいさんは行ってしまった。ふぅ、とにかく、このイヌを助けることができて良かった。うん、別に気にしてないし……。
「怪我はないですか? イヌさん」
「は、はい! ありがとうございます!」
「本当に良かったです。助かって」
翔平がそう言いながら笑顔を向けると、イヌは頬を紅潮させます。
ポッ
イヌは恋に落ちました。犬なのに人間に恋愛感情を持ちました。
「(これが、これが運命だと言うの?)」
イヌは微熱を帯びたような表情で、桃太郎を見つめます。しかし、それは緑色の他種族によって遮られます。
「翔ちゃん! 私、君のお姉ちゃんとして頑張ったよ!? だからまた頬ずりさせてーーー!!」
「確かに頑張ってましたけど、お姉ちゃんとしてですか!? 家来として頑張ってくださいよ! 鬼退治なんですからね!?」
「あぁーーん!! またお姉ちゃんってーーー! カハッ!!」
「あぁもーーーー! またですか!」
翠は再び吐血しました。それに振り回される翔平。イヌはこの光景を見て、キジが自分と同じく桃太郎に好意を抱いていることを悟りました。
むむっ。わたしだって、桃太郎さんとお話したいのに! イヌはキジに嫉妬しました。どうすれば、桃太郎さんともっとお話できるかな?
そうだ! わたしも桃太郎さんと一緒に鬼退治に行こう! それがいいです! そしてゆくゆくは距離を縮めて告白するんです! イヌは決意を固め、桃太郎にお願いします。
「桃太郎さん! わたしもあなたの……」
「お姉ちゃん、幸せ……」
キジは何やら恍惚な表情を浮かべています。イヌは、桃太郎の横に倒れるキジも気になりますが、意識を桃太郎に戻して話を続けます。
「お姉ちゃんにしてください!」
「……は?」
「なっ!!」
キジに気を取られて言葉を間違えてしまったイヌ。ですがもう後には引けません。
こうしてイヌも何故か姉となり、桃太郎は旅を続けることになりました。
*
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